判例タイムズ1517号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年4月28日判決)。

 

 

本件は、高齢の親(下記の判決文のC)と一緒に子(原告)が、銀行窓口に同行し、親名義の口座から約1億円超を自分名義の口座に送金したものの、他の子供らからクレームがあり、原告の口座につき取引停止措置が取られたため、原告が銀行を被告として預金の払戻しを求めたという訴訟になります。また、その後当該親が亡くなったことから、原告以外の子らが、原告に対して、払戻権限がない不法な引き出しにより親が被った損害についての賠償請求権を相続したなどとする独立当事者参加による訴えも併せて併合されています。

 

 

争点の一つは、原告に払戻の権限があったかどうかですが、これについて第一審と控訴審とで判断が分かれています。

 

【第一審判決】

(1) 被告及び参加人らは,原告には,本件払戻しの権限がなかった旨主張する。

(2) そこで検討すると,前提事実に加え,後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,平成28年6月9日,車椅子に乗ったC及びDとともに被告日暮里支店を訪れ,C及びDを来客用ソファに座らせて窓口に向かい,同支店のお客様サービス課のH(以下「H」という。)に対し,Cは体調が悪く,字を書くことができないので代筆したいと述べて,Cに代わって本件払戻しの手続をすることの了承を求め,Cの氏名を記入してCの届出印を押印した払戻請求書,C名義口座①及び③の預金通帳,Cの外国人登録証明書及び原告のパスポートを提示して,H及び同課副課長であるI(以下「I」という。)から上記了承を得て本件払戻しを受けるとともに,本件振替入金の手続をした(前提事実(3),甲47,乙3,4,10,証人E,原告本人)。
イ 一方,原告は,平成28年4月4日までに,大阪信用金庫勝山支店のC名義の普通預金口座から,キャッシュカードを用いて,平成27年8月16日時点で1680万1285円の残高があった預金を全額出金し(甲25,丙8,12),平成28年6月9日には,Cとともに三菱東京UFJ銀行日暮里支店を訪れ,Cに代わって同行亀有駅前支店及び同行上野中央支店のC名義の各普通預金口座の解約手続をして合計2141万2091円の払戻しを受け,これを同行六本木支店の原告名義の普通預金口座に入金し(甲17,69,丙4,5,丁20~22),また,Cとともにりそな銀行日暮里支店を訪れ,Cに代わって同行上野支店のC名義の普通預金口座の解約手続をして1069万9269円の払戻しを受け,これを同行鶴橋支店の原告名義の普通預金口座に入金した(甲16,25,70)。
ウ Cは,平成28年6月10日,東京都荒川区所在の原告の居宅において,夕食時に脱力と意識障害を生じて倒れ,その日は様子を見ていたが,翌11日は起き上がることができず,午後6時頃に救急車で日本医科大学付属病院に搬送され,脳梗塞との診断を受けて同病院に入院し,同年7月4日に転院先である社会医療法人社団正志会花と森の東京病院におけるリハビリを終えて同病院を退院した後は,参加人Z1宅において生活していた(前提事実(5),丁4,5,7,45,参加人Z1本人)。
エ 参加人Z1は,平成28年7月14日,被告鶴橋支店にC名義の預金の状況を電話で確認して本件払戻しの事実を知り,同月15日,Eを参加人Z1宅に呼び出した。
 Cは,来訪したEに対し,①平成28年2月頃,預金通帳と届出印を原告に預けたこと,②同年6月9日は,原告とDに無理やり被告日暮里支店に連れて行かれ,原告が本件払戻しをしていることは知らなかったことを述べた。
 (前提事実(4),乙10,丁7,証人E)
オ Cは,平成28年8月4日,前記ア及びイの払戻し等のうち,被告,大阪信用金庫及び三菱東京UFJ銀行に係るものについて,原告が無権限でしたことが判明したとして,弁護士に対し,当該預金口座に関する調査及び各金融機関に対する損害賠償請求等を委任した(丙9)。


(3) 前記(2)ウの認定事実によれば,Cは,本件払戻し時には,未だ脳梗塞を発症していなかったと考えられるところ,Cが,被告日暮里支店に原告と同行し,C名義口座①及び③の預金通帳及び届出印並びに本人確認書類を原告に預けていたこと(前記(2)ア)や,三菱東京UFJ銀行日暮里支店及びりそな銀行日暮里支店が,前記(2)イの各解約手続はCの意思に基づき実施した旨回答していること(甲69,70)からすれば,Cにおいて,原告がC名義口座①及び③について何らかの手続をすることは了承していたものと認めるのが相当である。
 しかし,前記で説示したとおり,C名義預金①及び③の原資はCの資産であり,その総額が1億円を超えるものであることからすると,Cがこれを原告に軽々と全額贈与するとは考え難く,Cが,平成28年7月15日,Eに対し,原告が本件払戻しをしていることは知らなかった旨述べたこと(前記(2)エ)や,同年8月4日,原告が無権限で本件払戻しをしたこと等を理由に,弁護士に対し,C名義口座①及び③に関する調査等を委任したこと(前記(2)オ)を総合すれば,Cにおいて,原告がC名義預金①及び③の払戻金を領得する前提で本件払戻しをすることに同意していたとは認められない。
(4) したがって,原告には,本件払戻しの権限がなかったものと認められる。

 

【控訴審判決】

Cは、控訴人とともに被控訴人銀行m支店に赴き、C名義口座①及び③の預金通帳及び届出印並びに本人確認書類を控訴人に預け、控訴人において、本件払戻し及び本件振替入金の手続が行われたところ、これに引き続き、b銀行f支店及びc銀行j支店にも控訴人とともに赴き、控訴人において、C名義の複数の普通預金口座の解約手続を行い、その払戻金をいずれも控訴人名義の普通預金口座に入金している。また、原審の調査嘱託の結果によれば、b銀行f支店及びc銀行j支店における上記各解約等の手続については、Cに対する意思確認が行われており、その承諾の下に行われたとみることができる。

そうすると、これらの解約等と同様に、控訴人は、Cの承諾の下に、本件払戻し及び本件振替入金を行ったとみることが、事実の経過に照らして自然かつ合理的であるということができ、むしろ、本件払戻し等についてのみCの承諾がなかったとするのは無理があるといわざるを得ない。そうすると、被控訴人銀行m支店における本件払戻し及び本件振替入金についても、Cの承諾の下で行われたといえ、ひいては、控訴人に本件払戻しの権限がなかったと認めることはできない。

 

 

そうすると、原告(控訴人)の逆転勝訴となりそうですが、控訴人は、Cとの間の寄託契約に基づき、本件払戻しによって払い戻した金員を預かって、控訴人名義口座に入金し、保管していたものというべきであL、そうすると、Cは、控訴人に対し、上記寄託契約に基づき、控訴人に寄託した金員の返還請求権を有するところ、Cの死亡によって、被控訴人(参加人)ら及び控訴人は、Cの控訴人に対する寄託物返還請求権を相続したものと認められるとして、法律構成を帰宅契約に基づく返還請求権の相続という形としたうえで、他の子らの請求を認めました。