判例タイムズ1515号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年7月6日判決)。
本件は、発信者情報開示が求められた仮処分事件ですが、申立が却下され、異議審の判断になります(原決定を是認)。
経緯としては、原告(司法書士)が、自ら申し立てた発信者情報開示仮処分命令申立事件に係る申立書類一式をiPhoneで撮影し(本件写真)、本件写真と共に「発信者情報開示仮処分命令の申立をまた行いました 月曜日に債権者面接。明日はYou Tube動画とコメントで開示したいものがあるためGoogle社に申立予定です。もう少し勉強させていただき、匿名による誹謗中傷に困っている方に情報提供したり、書類作成をしてあげたりと出来るようにいたします。」(絵文字省略)との文章をツイッターに投稿したところ、本件写真と共に「申立を行ったというツイートで掲載している画像。申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」との文章が記載された投稿がされたため、本件写真は、原告が申し立てた発信者情報開示仮処分に係る申立書類一式を撮影したものであり、原告に対し誹謗中傷をする者に対し容赦せず、法的措置も辞さないとする意思など、原告の思想や感情を創作的に表現した著作物であるなどと主張し、発信者がツイッターにおいて本件写真を原告の氏名を記載せず投稿したことにより、原告の著作権(公衆送信権及び送信可能化権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたとして発信者、原告が情報の開示を求めたというものでした。
判決は、次のとおり判示して、本件写真の著作物性自体を否定しています。
・本件写真は、発信者情報開示仮処分命令申立事件に関する申立書及びこれに関する書面をiPhoneで撮影したものであるところ、その内容は、「管轄上申書」と題する書面等を重ねた上、若干斜めに「発信者情報開示仮処分命令申立書」と題する書面を重ね、ほぼ真上からこれを撮影したものであり、本件写真の左右には余白があるものの、上記各書面は本件写真の大部分を占めており、そのほとんどの部分が写真の枠内に収まっていることが認められる。
・本件写真の構図は、書面等をその大体の部分が写真の枠内に収まるようにほぼ真上から撮影するというごくありふれたものであり、光量、シャッタースピード、ズーム倍率等についても、原告において格別の工夫がされたものと認めることはできない。
・そうすると、本件写真は、ありふれた表現にとどまるものであるから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、本件写真が著作物に該当するものと認めることはできない。
また、仮に本件写真に著作物性が認められるとしても、本件投稿において本件写真を利用する行為は、著作権法32条1項の規定に基づき、適法であるものと認められるとも説示しています。
・本件写真は発信者情報開示の仮処分命令を求める民事保全手続に係る申立書等を撮影したものであり、本件投稿が、本件写真と共に「申立を行ったというツイートで掲載している画像。申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」との文章を投稿するものであることからすると、本件投稿は、原告が、上記民事保全手続の申立てをした旨投稿しているのに、同投稿に付された本件写真に「受付印」がないことを批評する目的で本件写真を利用したことが認められる。
・そうすると、本件投稿において本件写真を示すことは、批評の対象となった投稿の内容を理解するに資するものといえるから、本件写真の利用は、批評の目的上正当な範囲内で行われたものといえる。
・また、本件写真には、「債権者」として原告の氏名が記載されており、本件投稿には、「申立を行ったというツイートで掲載している画像。」と記載されていることが認められることからすれば、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を踏まえると、本件写真の撮影者は、原告であると理解されると解するのが相当である。そうすると、本件写真の出所は明らかであるといえ、その他に、本件写真及び本件投稿の内容、上記批評の目的、本件写真の掲載態様等を併せ考慮すると、本件投稿に本件写真を添付したことは、公正な慣行に合致しているものと認めるのが相当である。
名誉毀損についての主張については、本件投稿の内容は、原告が民事保全手続の申立てをした旨を投稿しているのに、同投稿に添付された本件写真には受付印が押されていないという事実を摘示するものにすぎず、これを超えて、原告が虚偽の事実を投稿する人物であることを摘示するものと認めることはできず、摘示事実が原告の社会的評価を低下させるものとはいえないとして否定されています。