金融法務事情2222号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年9月6日判決)。

 

 

いわゆる振り込め救済法と呼ばれる法律は議員立法ということもあり荒っぽい法律なのですが、流れとしては、捜査機関などからの情報提供などを通じて犯罪行為に利用されたと考えられる口座について、金融機関がその口座を凍結したうえで、預金保険機構を通じてその口座にあるお金を被害者に配分してしまうという(預金債権の消滅)というものです。

 

 

ただ、口座保有者(名義人)の利益も踏まえて、一定期間内に権利行使の届出を行えば、預金債権の消滅手続きはストップすることになります(法7条)。

なお、手続きがストップした以降はどうなるのかということですが、凍結解除がされない限り、そのまま塩漬けになります。

その間に、凍結要請をした警察や弁護士に対して凍結解除を求めたり、金融機関に対して口座にあるお金が犯罪利用によるものではないと主張し、場合により裁判をするなどして凍結が解除されればお金が引き出せるようになります。ただ、とりわけ警察からの凍結要請などは、ある程度の捜査を経てなされているものであることも多く、多くの場合は警察がすぐに解除してくれることもないでしょうし、その状態で裁判をしてもなかかな勝てないことも多いかと思います。もっとも、そのまま永遠に塩漬けかといえば、ある程度の合理的期間を経過して(特に期間が決まっているわけではないですが、不法行為の消滅時効期間である3年間が一つの目安になるのではないでしょうか)、それでもなおその口座に対して被害者が差押などをしてくることもないようなのであれば、当該凍結は意味がないとして、警察としても凍結を解除するように金融機関に通知し、その結果解除されるということになります。

なお、凍結されたお金に対して被害者が裁判などを経て差押をしてくればお金は被害者(債権者)に支払われることになります。

 

 

犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
(預金等に係る債権の消滅)
第7条 
対象預金等債権について、第五条第一項第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等がなく、かつ、前条第二項の規定による通知がないときは、当該対象預金等債権は、消滅する。この場合において、預金保険機構は、その旨を公告しなければならない。

 

権利行使の届出を行わなければそのまま債権消滅の手続きが進んでしまいますが、その場合でも、なお口座名義人の権利を保護するため、法25条1項は届け出しなかったことにやむを得ない事情があつたことなどを説明することにより金融機関に対して消滅した債権相当額の払い戻しを求められるものとしています。また、その場合でも、例えば消滅した債権額が1000万円だったとして、犯罪による入金が600万円、無関係の入金が400万円されていたときは、1000万円から600万円を差し引いた400万円のみが払い戻しの対象となると2項は定めています。

 

(犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合における支払の請求等)
第25条 
対象預金口座等に係る名義人その他の消滅預金等債権に係る債権者(以下この条において「名義人等」という。)は、第八条第三項又は第十八条第二項の規定による公告があった後において、対象預金口座等に係る金融機関に対し第五条第一項第五号に掲げる期間内に同号の権利行使の届出を行わなかったことについてのやむを得ない事情その他の事情、当該対象預金口座等の利用の状況及び当該対象預金口座等への主要な入金の原因について必要な説明が行われたこと等により、当該対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合には、当該金融機関に対し、消滅預金等債権の額に相当する額の支払を請求することができる。
 名義人等は、対象預金口座等について、当該対象預金口座等に係る金融機関に対し第五条第一項第五号に掲げる期間内に同号の権利行使の届出を行わなかったことについてのやむを得ない事情その他の事情について必要な説明を行った場合において、対象犯罪行為による被害に係る財産以外の財産をもって当該対象預金口座等への振込みその他の方法による入金が行われているときは、第八条第三項又は第十八条第二項の規定による公告があった後において、当該対象預金口座等に係る金融機関に対し、消滅預金等債権の額から当該入金以外の当該対象預金口座等へのすべての入金の合計額を控除した額の支払を請求することができる。ただし、当該消滅預金等債権の額が当該合計額以下であるときは、この限りでない。

3項以下 略

 

本件は、警察からの要請により口座凍結され(約600万円)、期間内に権利行使の届出がされなかったので、債権消滅手続きが進んで預金債権が消滅してしまいました。

口座凍結後、代理人弁護士が金融機関に対し問い合わせしたところ、すでに債権消滅手続き入っており公告もされていたのですが、金融機関の担当者からはその旨の告知がされなかったことから、権利行使の届出ができなかったやむを得ない事由があると主張されましたが、代理人弁護士に対しては担当者から今後被害者救済のための手続きが進められていくことなどが伝えられており、預金保険機構の際にも公告がされていたことなどから、十分な情報提供を受けていたといえるとして、裁判所により退けられています。なお、全銀協ガイドラインには債権消滅の開始にかかる旨の公告を預金保険機構に対して求める旨などにつき簡易書留郵便で送付することなどが定められているものの、取引停止措置を実施した場合にはこれを省略して良いとも規定されていることや本件では十分な情報提供がされていたといえることも踏まえて、全銀協ガイドラインによってもやむを得ない事由がなかったとはいえないと判断されています。

 

 

その他、本件では主要な入金についての説明が行われたとはいえないとして結論として法25条に基づく権利救済を否定しています。

 

 

期間内に権利行使の届出をしていれば・・・・。

 

 

 

振り込め詐欺防止法に基づく預金取引停止措置が適法とされた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

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