判例タイムズ1515号で紹介された裁判例です(大分地裁令和令和5年3月17日判決)。

 

 

本件は、昭和26年頃に設置された川から工場まで水を通すための被告(設置したのは被告が継承した事業の前事業者)の送水管について、送水管が埋設された土地の譲受人である原告らが、被告に対して、その撤去などを求めたという事案です。

 

 

争点は2つあり、一つは、地役権(民法280条 他人の土地を自己の土地の便益に供する権利 本件では原告らの土地を使って送水管を設置する権利)につき、本件では登記がなかったため、送水管設置後に当該土地を譲り受けた原告らは「第三者」(民法177条)にあたり被告は地役権を対抗できないのではないのか、被告にとって原告らは登記がなくても地役権を対抗できるのか(「第三者」にはあたらない)という点でした。

 

 

民法

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

設定登記のされていない通行地役権について承役地の譲受人が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないと解すべき場合のリーディングケースとして、「通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である」旨を判示した最高裁平成10年2月13日判決があります。

 

 

本件においても裁判所は当該判例を引用して、本件各土地が継続的に使用されていることが客観的に明らかであったといえるか検討し、一部の原告を除くと、本件各土地に係る売買契約に際して作成された書面(契約書等)には、同土地の地下に本件送水管が埋設されていることをうかがわせる記載がなかったり、そのことを伝えられた形跡がないことなどから、これらの原告は、被告に対し、本件地役権に係る設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」に当たるとしました(登記がない以上、被告は、これらの原告らに対して地役権を主張できない)。

重要事項説明書に「1.本物件には工業用水管が埋設されております。」との記載がされていた原告については、本件送水管に係る地役権の登記の欠缺を主張することは、興国人絹パルプの権利取得を前提とする前記のような行動と矛盾するものとみられても致し方ない。したがって、原告X8は、本件地役権に係る設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」に当たらないとされました。

 

 

そうすると、被告が地役権の主張ができない原告らからの送水管撤去請求は原則として認められることになりそうですが、裁判所は、それによって被る被告の不利益などを指摘して、原告らの本件送水管の撤去請求は、権利の濫用に当たり許されないというべきであるとしています。

 

 

相隣関係につき建替工事のための車両の通行やガス管の設置等の妨害禁止請求が認められた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)