金融法務事情2223号で紹介された事例です(大阪高裁令和5年4月14日判決)。

 

 

会社(被告)が社員を被保険者として傷害保険に加入していたところ、就労中の事故があり傷害保険金が支払われましたが、特約により会社が受け取ることとされていたため保険金は会社に支払われました。

その後当該社員(原告)は他に転職しましたが、被告からの借り入れが残ったままであったため、被告が原告の転職先の給与を差し押さえたところ、原告が、前記の保険金は自らが受け取るべきものであり、会社は不当利得しており、これと借入金は相殺できるとして訴えたというのが本件です。

 

 

裁判所は、被告は受け取った保険金を、原告からの委託がなくとも事務管理として特段の事情のない限りは原告に対し引き渡さなければならないとして、被告が保持している保険金は不当利得であるとして原告の主張を認めました。

また、保険金を被告が受けとるいう特約がされていた以上、被告が原告に対して保険金を引き渡す必要はないという主張に対しては、保険会社が被告に支払ったとしてもそれを原告に引き渡すことまで免れるという特約ではなく(保険会社が原告に保険金を被告に支払ったという通知をしていることもそのような特約がなかったことを裏付けているとしています。権利者でなければそのような通知をする必要がないためです)、仮にそのような内容の特約があったとしても、保険法8条、12条により無効であると判示しています。

 

 

保険法

(第三者のためにする損害保険契約)
第8条 
被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。

 

 

(強行規定)
第12条 
第八条の規定に反する特約で被保険者に不利なもの及び第九条本文又は前二条の規定に反する特約で保険契約者に不利なものは、無効とする。

 

 

なお、団体生命保険の事案に関して、会社が,被保険者である各従業員の死亡につき6000万円を超える高額の保険を掛けながら,社内規定に基づく退職金等として従業員らに実際に支払われたのは各1000万円前後にとどまること,会社は,生命保険各社との関係を良好に保つことを主な動機として団体定期保険を締結し,受領した配当金及び保険金を保険料の支払に充当するということを漫然と繰り返していたにすぎないという運用が,従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から逸脱したものであることは明らかであるとしつつ、他人の生命の保険については,被保険者の同意を求めることでその適正な運用を図ることとし,保険金額に見合う被保険利益の裏付けを要求するような規制を採用していない立法政策が採られていることにも照らすと,死亡時給付金として第1審被告から遺族に対して支払われた金額が,本件各保険契約に基づく保険金の額の一部にとどまっていても,被保険者の同意があることが前提である以上,そのことから直ちに本件各保険契約の公序良俗違反をいうことは相当でなく,本件で,他にこの公序良俗違反を基礎付けるに足りる事情は見当たらないとした最高裁判例がありますが(最高裁平成18年4月11日判決)、判決が指摘しているように、他人を被保険者とする団体生命保険は,保険金目当ての犯罪を誘発したり,いわゆる賭博保険として用いられるなどの危険性があることからその後契約内容に制限がかけられるなどして改善が図られました。