将棋のタイトル戦の棋譜を盤面図に再現した動画配信が著作権侵害だとして削除されたのは不当だとして、男性ユーチューバーが、棋戦を中継する運営事業者「囲碁・将棋チャンネル」に対し約340万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が16日、大阪地裁であった。
同チャンネルは日本将棋連盟などの出資を受け、棋士らの対局の様子などを有料で放送している。判決などによると、同チャンネルは著作権侵害を理由に男性側が2020〜23年に配信した棋戦の棋譜を使った動画についてユーチューブ側に削除申請。動画は一時削除された。

(1月16日日経新聞から一部引用)

 

裁判所は「動画の棋譜は原則として自由利用の範疇(はんちゅう)に属する情報」として、削除申請を違法として,約120万円の支払いを命じたとのことです。

 

 

本件と類似する事案としては,編み物をしている動画や作品をYouTubeにあげていたところ,その削除を申請した者に対する損害賠償を認容した事例があります(第一審京都地裁令和 3年12月21日判決 控訴審大阪高裁令和 4年10月14日判決)。

 

【控訴審判決要旨】

・YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。
 また、収益化されたチャンネルにおいては、YouTubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法的上保護される利益を有すると解することができる。

・著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYouTubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。

・編み物の編み目(スティッチ)は、毛糸によって小物又は衣類を作成するに当たっての技法のアイデア又はその技法により毛糸が編まれた編み物の最小構成単位にとどまるものであって、思想又は感情の表現とは認められないから、それ自体を著作物と認めることはできず(知的財産高等裁判所平成24年4月25日判決)、控訴人がこれを控訴人動画で紹介していたとしても同控訴人が著作権を有するということはできない。

・そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは説示したとおりであるし、控訴人は、むしろ動画の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたことが認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、控訴人が本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を検討した様子は全くうかがえない。そればかりか、控訴人が本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由を端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑させることに終始するものであるし、本件訴訟を提起された後においてすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、その他前記で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定されるには困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人の著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否かを検討することなく、すなわち、控訴人が著作権者等であることはもとより、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相当である。

・さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方的に押し付けるようなコメントを公表したりして、裁判手続で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたことも認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人は、著作権侵害通知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。