金融・商事判例1681号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年7月18日判決)。

 

 

本件は,成年後見開始の審判を受けた父(成年後見人の属性は不明)が,その子に対して,自らの口座から750万円を引き出したとして,子がそれまでに立て替えた分を差し引いた残額の請求を行い(本訴),子が反訴として父に対して,問題となっている父名義の口座の普通預金,外貨預金の預金者は自分であるとして預金債権が子自身に帰属することの確認を求めた(反訴)というものです。

 

 

預金が誰に帰属するのかというのは時折争われる問題でして,名義に従って判断すれば簡単でよいのですが,判例は,一貫して,実際に出捐した人が預金者であるという立場を取っています。

 

 

本件でもこのような観点から本件預金の出捐者が誰かという点について検討し,次のような事情から子であるものと判断しています(子の反訴請求を認容 ただ,父からの本訴請求についても子が引き出したお金の原資は父に帰属すべき株式売却金であり,その事自体は子も争っていなかったため認容されています。)。

・本件口座は,将来父親と海外旅行に行くことを想定してそのための資金を自分の預金と分けて管理貯蓄するため,子の勤務先に近い金融機関の支店を選んだ。

・口座開設後は子の勤務先からの給与の一部を毎月本件口座に振り込んでもらい,ある程度溜まったら外貨預金に振り替えていた。

・キャッシュカードや暗証番号は子が管理していた。

・実際に父とは何度か海外旅行に行きそのための費用として一定額を引き出していた。

・本件口座への入金は,子の勤務先からの給与の一部の送金が大半を占めており,父に帰属すべき入金としては株式の売却代金,配当金,税金の還付金の3つしかなかった。

 

 

その他,本件では,父の収入は年金程度しかなく,子が介護費用や食費などを負担していたことなども認定されており,前記のとおり,父を連れての海外旅行のために本件口座を開設して給与の一部を送金原資として実際に海外旅行に連れて行ってあげているなど,親子関係はまったく良好であったとしか言いようがないのですが,何故,こんな事態となったのかについては判決文にも触れられておらずとても残念というほかない感想です。

 

 

記名式定期預金等が預金名義人に帰属し,その意思に基づかずに払い戻されたとされた事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)