下記の最高裁判決で差し戻された差戻審の判決になります(仙台地裁令和5年3月14日判決 判例タイムズ1513号など)

 

 

地方議会の出席停止の懲罰と司法審査 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

本件は、市議会の議員であった原告が、議会運営委員会における発言を理由として市議会から科された23日間の出席停止の懲罰が違法であるとして、被告(市)を相手に、その取消しを求めるとともに、議員報酬のうち本件処分による減額分を請求したというものでした。

 

 

市議会が原告に対し懲罰を行った経緯としては、

原告と同じ会派に所属していた同僚議員が、海外渡航のため、委員会を欠席したため、市議会は、議決により公開の議場における陳謝の懲罰を科し、これを受け、当該議員は、市議会の議場において、懲罰特別委員会が作成した陳謝文を読み上げたのに対し、原告は、市議会の議会運営委員会において、「読み上げたのは、事実です。しかし、読み上げられた中身に書いてあることは、事実とは限りません。それから、仮に読み上げなければ、次の懲罰があります。こういうのを、政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」との発言をしたところ、出席停止の懲罰が科されたというものです。

 

 

この懲罰が違法であるかどうかを審理すること自体について、従来の判例では否定されていたわけですが、司法審査が及ぶと判例変更が行われ、実質審理をすべきとして差し戻されたのが本件になります。

 

 

本件判決は、地方議会は、法定の懲罰事由がある場合に、諸般の事情を考慮して懲罰処分をするか否か、また懲罰処分をするときにいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、地方議会の議員に対する懲罰は、その合理的な裁量の範囲内にある限り違法となるものではないが、法定の懲罰事由を欠く場合、又は上記決定に係る判断が、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合には、違法となるものと解するのが相当であるとした上で、次のとおり説示して、本件では、懲罰事由を欠くものとして、違法であり、取り消されるべきであると判断し、原告の請求を認容しています。

・本件発言のうち、「読み上げたのは、事実です。しかし、読み上げられた中身に書いてあることは、事実とは限りません。」という部分は、原告自身の認識を前提として、同僚議員が本件陳謝処分を受け入れて本件陳謝文を読み上げたからといって、本件陳謝文の同記載部分が客観的に正しい事実であるとは限らない旨を指摘したものと認められる。
・本件発言のうち、「それから、仮に読み上げられなければ、次の懲罰があります。こういうのを、政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」という部分は、本件陳謝文を読み上げたということはその記載内容を当該議員も認めたからである旨をいう他の議員の意見を受けて、原告が述べたものである。そして、原告は、同意見に対する反論として、当該議員も本件陳謝文の上記記載部分は事実と異なるものと認識しているとの理解及び過去に陳謝文の読上げを拒否したときにはそれを理由として次に出席停止処分の懲罰を科されたという自らの経験の下、議員が本件陳謝文を読み上げた理由につき、当該議員は、同記載部分の事実自体を認めたからではなく、更なる懲罰を受けることを回避するために、妥協(譲歩)して、本件陳謝処分を受け入れ、同人の認識する事実とは異なる事実の記載がある本件陳謝文を読み上げるとの判断をしたものである旨の意見を述べたものと解するのが相当である。

・原告が、上記のとおりの主張をして、他の議員に対する反論をすることは、議会における通常の議論として許される範囲を逸脱するものではないというべきである。

・本件処分は、原告に対し、議会の9月定例会の会期全ての日数の出席停止を科したものであるところ、出席停止は除名処分の次に重い処分である上(地方自治法135条1項各号参照)、これにより原告は23日間という長期間にわたり、議会に一切出席することが許されず、平成27年度の岩沼市の決算を審議・審査する議案、平成28年度の一般会計補正予算案、条例改正案等の多数の重要な議案について、質疑、討論、採決等の議員としての中核的な活動に一切関与できなくなったものである。
・以上によれば、本件処分は、懲罰の対象となる原告の言動(本件発言)の内容、態様に比して、著しく重い懲罰を科すものであることが明らかであり、本件処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、岩沼市議会の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものと認められるから、違法というべきである。