判例タイムズ1513号で紹介された裁判例です(福井地裁令和元年5月29日判決)。

 


判例タイムズの解説によると、本判決は,行政委員会の委員任命処分における第三者の原告適格が肯定されたおそらく初めての裁判例であろうとのことです。

 

 

自分が任命されなかったとしても、任命権者には誰を任命するかについての裁量があるので、他社を任命した行政処分についてとやかく文句を言える資格(原告適格)はないということがいえそうですが、本判決では次のとおり指摘して、その原告適格を肯定しています。

 

 

・法律の各規定によれば,法(農業委員会等に関する法律)9 条 1 項の規定による推薦及び応募は,被推薦者等の数が委員の定数を超えない場合でも,市町村長が被推薦者等を委員に任命することを義務付けるものではないものの,市町村長は推薦等の結果を尊重しなければならないし,被推薦者等の数が委員の定数を超えた場合でも,任命の過程の公正性及び透明性が確保される必要がある。そうすると,被推薦者等には公平性及び透明性が確保された過程のもと,推薦等を尊重して任命の可否が決せられることについて利害関係があるといえ,これを単なる期待権にすぎないというのは相当ではない。

・また,法 8 条 1 項の規定による委員の任命は,処分の名宛人を農業委員会の委員の地位に就かせるものであり,委員は,非常勤の職員として,法 6 条所定の事務を処理し,秘密保持義務を負うとともに(法14 条),報酬を支給され職務を行うために要する
費用を弁償されるのであって(法 15 条),違法な委員任命処分により委員に任命されなかった被推薦者等は,上記のような委員の地位に就くことができない不利益を被る。委員任命処分が違法であるとして取り消された場合には,市町村長は,改めて推薦等の結果を尊重し,任命すべき者を選考することになる。推薦等は,法令に基づく申請ではなく,委員に任命されなかった被推薦者等に対しては任命しない旨の処分がされないから,同被推薦者等が上記の不利益を除去するには,自身以外の者に対する
委員任命処分の取消しを求めるほかない。そうすると,委員任命処分は,処分の名宛人以外の被推薦者等にとっては上記の不利益を与えるものといえる。
・上記で述べたことを踏まえれば,法は,被推薦者等が,委員任命処分において,公平性及び透明性が確保された過程のもと,推薦等を尊重して任命の可否が決せられるべき利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解するのが相当である。
・したがって,委員に任命されなかった被推薦者等は,法 8 条 4 項各号の事由がない限り,委員任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し,原告適格があるというべきである。

 

 

もっとも原告適格が認められることと当該処分が違法であったこととの判断は別であり、本件では、本件任命処分に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるということはできないと判断され請求は棄却されています。

 

 

納骨堂の経営等に係る許可の取消訴訟と納骨堂の周辺住民の原告適格 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)