判例タイムズ1512号などで紹介された裁判例です(大阪地裁令和5年1月19日判決)。

 

 

本件は,土地を賃借りした賃借人が,土地上に建物を建てるため工事を請け負わせたが,何重にも下請が重なっているという経緯において,当事者によるいくつかの請求が錯綜しているという事案です。

 

 

まず,土地の賃借人が工事の下請業者の一つ(発注者である賃借人がみると4次下請先)に対し,土地上の残置物や埋設物の撤去を求めた請求につき,その根拠は,賃借権に基づく妨害排除請求権又は土地所有者(賃貸人)の土地返還請求権の代位行使という法律構成でした。

この状況において,土地の賃貸人自身が当該下請け業者に対して土地の返還請求を求めるため訴訟への参加を申し出たため,その可否が問題となりました。

 

(判決要旨)

 土地賃貸人は、民訴法47条1項後段による本件訴訟への参加を申し出ているが、所有権に基づく返還請求権は平成29年法律第44号の施行期日後である口頭弁論終結時に発生する権利と解され、賃借人が代位行使する賃貸人の所有権に基づく返還請求権も同様であって、これらは非両立の関係には立たない(民法423条の5、平成29年法律第44号附則18条1項)から、賃貸人の上記申出は民訴法47条1項後段の要件を満たさない。もっとも、賃貸人は、本件訴訟において賃借人が代位行使する上記権利について同法115条1項2号に該当する者であるから、その参加申出を同法52条1項に基づく適法な申出と解することができる。

 

 

民事訴訟法
(共同訴訟参加)
第52条1項
 訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合には、その第三者は、共同訴訟人としてその訴訟に参加することができる。

 

 

土地の賃貸人と賃借人が同じ根拠で請求をしていることになりますがこの場合の処理についても問題となりました。

(判決要旨)

口頭弁論終結時に発生する物権的請求権について、所有者兼賃貸人が行使している以上、賃借人が債権者代位権を行使することはできず、賃借人の明渡請求は債権者代位の要件を欠く不適法な訴えとしていずれも却下を免れない(本件では所有者兼賃貸人による土地明け渡し請求を認容)。

 

 

下請負人の注文者に対する留置権の主張の可否

民法

(留置権の内容)
第295条1項
 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

(判決要旨)

 留置権は担保物権であって、債権者以外の第三者に対しても主張できるのが原則であり、本件のように、建物新築工事について、注文者・元請、元請・下請と順次請負契約が締結された場合に、注文者が元請に代金を支払っていないために元請が下請に代金の支払ができないときには、元請がその請負代金債権を被担保債権として請負契約の目的物である建物及びその敷地を留置することができるのと同様に、下請もこれらを留置することで注文者に対して代金支払を間接的に強制することが許されるが、注文者が元請に代金を支払済みであるにもかかわらず元請が下請に代金を支払っていないときには、元請が注文者に留置権を行使できない以上、注文者との関係で元請の履行補助者的立場にある下請も同様に留置権を行使することができないと解すべきである。仮に後者の場合に下請に留置権を認めた場合、注文者が元請と下請に二重に代金を支払うことを間接的に強制され、元請の無資力のリスクを注文者が負担することになってしまうことになるが、このように下請の債権を注文者の犠牲の下で保護することは、当事者の公平を図るという留置権の上記趣旨を超えるものである。
 そして、上流にある本件請負契約の請負代金について本件鉄骨基礎までの出来高である4347万円を超えた支払が既にされているのであるから、4次下請業者が本件鉄骨基礎を所有し本件土地を賃借する注文者との関係で留置権を行使することはできない。