判例タイムズ1512号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年4月19日判決)。

 

 

民事訴訟の訴状に記載しなければならない事故は民訴法と規則で次のとおり決められています。

 

(訴え提起の方式)
第134条2項
 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 当事者及び法定代理人
 請求の趣旨及び原因

民事訴訟規則

第2条 1項 訴状、準備書面その他の当事者又は代理人が裁判所に提出すべき書面には、次に掲げる事項を記載し、当事者又は代理人が記名押印するものとする。
一 当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所
二 事件の表示
三 附属書類の表示
四 年月日
五 裁判所の表示

 

本件は、違法不当な懲戒請求をされたとして、弁護士が原告として慰謝料請求を事案ですが、第一審判決が請求を認容したのに対し、被告が、訴状に法律事務所の所在地を記載しているのは規則に違反するので却下すべきであるとして控訴したものです。

 

 

裁判所は、次のとおり説示して、主張を退けています。

「民事訴訟法133条2項1号が訴状の必要的記載事項として「当事者」を掲げているのは、訴状の送達(被告の場合)に資するとともに、民事訴訟の当事者が、判決の名宛人として判決の効力を受けるため、他の者と識別することができる程度の特定をする必要があるからであり、自然人については、氏名及び住所によって特定するのが通常であることから、民事訴訟規則2条1項において、訴状には、当事者の氏名及び住所、又は代理人の氏名及び住所を記載するものとされている(同項1号)と解される。そして、上記のような当事者の特定が求められる趣旨に照らせば、同項の規定にかかわらず、氏名については、通称や芸名等により、住所については居所、最後の住所、所属する事務所の所在地(弁護士や司法書士等)等によっても特定することが許容される場合があるというべきである(訴訟実務においても同様の運用がされている。)。
 被控訴人は、神奈川県弁護士会に所属する弁護士であり、a法律事務所に在籍する弁護士であると認められるところ(甲1)、本件訴状における原告の表示として、その氏名とともに、その在籍する法律事務所の所在地が記載されており、これによって、被控訴人と他の者とを識別することが十分可能であると認められるから、被控訴人が、本件訴状にその住所地ではなく在籍する法律事務所の所在地を記載したとしても、訴状の必要的記載事項である「当事者」の記載として欠けるところはないというべきである。」