家庭の法と裁判 42号,判例タイムズ1509号などで紹介された事例です(東京家裁令和4年6月15日決定)。

 

 

本件は、特定少年が受け子としてキャッシュカードを窃取したという事案(3件)ですが,裁判所は,受け子という共犯者間では末端、従属的な立場であったことを踏まえても、次のような事情を指摘した上で,本件の犯情は重く、保護処分の選択においては、少年院送致とすることも許容されると判断しました(収容期間3年間)。

 

 

・経緯

少年は、遊興費等に金銭を使い、金銭に困窮したことから、SNSを通じて簡単に高額の報酬の得られる仕事を探した結果、特殊詐欺に関与したという事案により、保護観察に付された。
 少年は、その後、無職期間こそ短いものの、自分なりの理由をつけて欠勤を繰り返すなどして、職を転々とし、安定した収入を得ることはできない一方で、少年は、職場や父母とのやり取りによりたまったストレスを解消するためにも、父母等からの指導も受け流し、地下アイドルのライブへの参加を含む遊興への支出を続けた。また、そのような生活状況を見かねた両親が少年の自立を促すために、少年に一人暮らしを始めさせて以降も、少年は、その生活状況を改めることなく、かえってフードデリバリーサービスの利用等も繰り返すなど、自身の収入にそぐわない、客観的には浪費といえる支出を続け、借金もしていた。その中で、少年は、無職期間と借金の返済期限が重なり、金銭に窮したため、SNSを通じて簡単に高額の報酬を得られる仕事を探し、本件へと至った。
 このような経緯は、保護観察に付された事案の経緯とほとんど変わっていない。鑑別結果通知書や少年調査票においても、前件までと同様、少年の問題として、目先の欲求を優先して場当たり的に行動する傾向があり、それが過剰な浪費等につながっていること、職場や家庭で思い通りにいかないことに陰性感情を募らせやすく、派手な遊興や金銭の費消によって現実逃避を図る傾向があることなどが指摘されている。これらの点は、上記の本件に至る経緯にもそのまま表れており、少年の問題は、1年○か月ほどの保護観察を経ても、ほとんど改善されていないといえる。保護観察状況等報告書によれば、少年は、職を転々としていたことを、ありのままに報告していなかったと認められ、調査・審判においても、少年は、20歳になるまでは後先について深く考えないでいたいと思っていたなどと述べていることに鑑みると、少年は、真摯に保護観察を受けておらず、自身の問題改善にも努めていなかったといわざるを得ない。
・鑑別結果

 少年が自閉スペクトラム症疑いなど、自身の考えに固執しがちな発達特性を持つことも指摘されており、これまでの父母による指導や保護観察という枠組みを経ても少年の問題が改善しなかった背景には、こうした少年の発達特性も影響しているものと考えられる。
・監護環境

 父母は、これまで少年に金銭を無心された際、それに応えて少年に金銭を与えるなどしがちであったことなどを反省し、審判に出席した父は、今後は自らが少年を引き取り、規制をかけながら更生させていきたいなどと述べている。父母が今なお少年の更生を支えようとしていることは、少年の更生にとって重要な社会資源であるが、上記のような根深い問題を抱える少年に対し、現時点で、社会内で適切な指導・監督を行うことは困難であり、父母の指導・監督に大きな期待を寄せることはできない。

 

 

詐欺未遂のほう助という事案において特定少年を第1種少年院送致とした事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)