判例タイムズ1509号で紹介された最高裁判例です(最高裁令和5年2月21日判決)。

 

 

本件は、石川県憲法を守る会が憲法施行70周年集会を開くため金沢市庁舎前広場の使用許可を求めたところ、庁舎等の管理上の支障があるなどとして不許可処分がされたため提起された国賠訴訟です。

 

 

問題となった庁舎管理規則の規定は,「特定の政策、主義又は意見に賛成し、又は反対する目的で個人又は団体で威力又は気勢を他に示す等の示威行為」を禁じるというもので,本件でこの規定を適用することが集会の自由を侵害し、憲法21条1項に違反するかが問題となりました。

 

 

【最高裁判決論旨】

・憲法21条1項の保障する集会の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであるが、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがあるのはいうまでもない。そして、このような自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決めるのが相当である(最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁等参照)。
・本件規定を含む本件規則は、金沢市長の庁舎管理権に基づき制定されているものであるところ、普通地方公共団体の庁舎(その建物の敷地を含む。以下同じ。)は、公務の用に供される過程において、住民等により利用される場面も想定され、そのことを踏まえた上で維持管理がされるべきものである。もっとも、普通地方公共団体の庁舎は、飽くまでも主に公務の用に供するための施設であって、その点において、主に一般公衆の共同使用に供するための施設である道路や公園等の施設とは異なる。
・このような普通地方公共団体の庁舎の性格を踏まえ、上記アの観点から較量するに、公務の中核を担う庁舎等において、政治的な対立がみられる論点について集会等が開催され、威力又は気勢を他に示すなどして特定の政策等を訴える示威行為が行われると、金沢市長が庁舎等をそうした示威行為のための利用に供したという外形的な状況を通じて、あたかも被上告人が特定の立場の者を利しているかのような外観が生じ、これにより外見上の政治的中立性に疑義が生じて行政に対する住民の信頼が損なわれ、ひいては公務の円滑な遂行が確保されなくなるという支障が生じ得る。本件規定は、上記支障を生じさせないことを目的とするものであって、その目的は合理的であり正当である。
・また、上記支障は庁舎等において上記のような示威行為が行われるという状況それ自体により生じ得る以上、当該示威行為を前提とした何らかの条件の付加や被上告人による事後的な弁明等の手段により、上記支障が生じないようにすることは性質上困難である。他方で、本件規定により禁止されるのは、飽くまでも公務の用に供される庁舎等において所定の示威行為を行うことに限定されているのであって、他の場所、特に、集会等の用に供することが本来の目的に含まれている公の施設(地方自治法244条1項、2項参照)等を利用することまで妨げられるものではないから、本件規定による集会の自由に対する制限の程度は限定的であるといえる。
・そして、本件規定を本件広場における集会に係る行為に対し適用する場合において上記イと別異に解すべき理由も見当たらないから、上記場合における集会の自由の制限は、必要かつ合理的な限度にとどまるものというべきである。
・所論は、本件広場が集会等のための利用に適しており、現に本件広場において種々の集会等が開催されているなどの実情が存するなどというが、前記のとおり、本件広場は被上告人の本庁舎に係る建物の付近に位置してこれと一体的に管理ないし利用されている以上、本件広場において、政治的な対立がみられる論点について集会等が開催され、威力又は気勢を他に示すなどして特定の政策等を訴える示威行為が行われた場合にも、金沢市長が庁舎等の一部である本件広場をそうした示威行為のための利用に供したという外形的な状況を通じて、あたかも被上告人が特定の立場の者を利しているかのような外観が生ずることに変わりはない。また、上記実情は、金沢市長が庁舎管理権の行使として、庁舎等の維持管理に支障がない範囲で住民等の利用を禁止していないということの結果であって、これにより庁舎等の一部としての本件広場の性格それ自体が変容するものではない。
・したがって、本件広場における集会に係る行為に対し本件規定を適用することが憲法21条1項に違反するものということはできない。

 

 

【宇賀克也判事の反対意見】

・多数意見は、本件広場が本件規則において庁舎等の一部に位置付けられているとの理解を前提として、本件を庁舎等の管理の問題として論じているが、私は、本件広場は公共用物であり、地方自治法244条2項にいう公の施設ないしこれに準ずる施設に当たるものと考える。

・本件広場が、市庁舎「内」の広場ではなく、市庁舎「前」の広場であり、庁舎に隣接しているとはいえ、壁や塀で囲われているわけではなく、南北約60m、東西約50mの平らな空間であり、「広場」という名称であることからもうかがえるように、本件広場は、原判決がいうように来庁者及び職員の往来に供されることも予定された施設であるとはいえ、そのことを主たる目的とする施設であるとは考えられない。

・本件広場は、本件規則2条の「庁舎等」に含まれず、公の施設として地方自治法244条の規定の適用を受けるか、又は公の施設に準ずる施設として、同条の類推適用を受けると解すべきと考えられる。

・公用物と公共用物の区別は、常に截然とできるわけではない。一口に庁舎といっても、宮内庁の庁舎のように国民が訪れることがほとんどないものから、住民票の写しや戸籍の謄抄本などを発行する市区町村の出張所のように広く住民が利用するものまで様々である。また、公立学校は公共用物に分類されることが多いが、学校施設は、当該学校の生徒に対する教育のためのものであり、当該学校の教職員又は生徒以外の者が自由に利用できるわけではないので、道路や公園のように何人でも自由に利用できる公共用物とは性格を大きく異にする。このように、公用物や公共用物の性格にはグラデーションがあり、単純な二分法を解釈論上の道具概念として用いることには疑問がある。さらに、公用物の場所や時間を限定して公共用物として利用することは広く行われるようになっている。例えば、庁舎に係る建物の最上階を展望室にして、一般に開放している例があるが、この場合の最上階は、公用物というより公共用物であろう。また、利用者の範囲が限定された公共用物を場所と時間を限定して一般に開放する取組も進められてきた。公立学校の施設についても、校庭を休日に限定して一般に開放することは珍しくなくなっているが、このような場合の休日における校庭は、公園と同じ機能を果たしているといってよい。この例のように、公用物や利用者の限定された公共用物であっても、空間的・時間的分割により、広く一般が利用可能な公共用物になることがあるのである。

・本件広場は、公の施設としての性格を有しており、集会のための使用は、その目的に沿った使用であるから、本件では、最高裁平成元年(オ)第762号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号687頁(以下「泉佐野市民会館事件最高裁判決」という。)の基準に従って、地方自治法244条2項の「正当な理由」の存否が判断されるべきであったと考えられる。そこで、上告人守る会による本件規則6条1項所定の許可の申請に対して金沢市長が平成29年4月14日にした不許可処分(以下、本反対意見においては「本件不許可処分」という。)に関し、上記基準に照らして「正当な理由」があるという余地があるか否かについて検討する。なお、広場管理要綱が廃止された後は、本件広場の使用許可申請についての審査基準がない状態になっていると考えられるため、地方自治法244条2項の「正当な理由」の有無については個別事案ごとに判断するほかない。
 泉佐野市民会館事件最高裁判決の判示を前提とすれば、公の施設における集会の不許可につき「正当な理由」が認められるためには、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が集会の自由を保障することの重要性に優越している場合でなければならず、かつ、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解すべきである。
 上記申請は、平成29年5月3日12時から14時まで(集会は13時から13時半までの30分程度)、憲法施行70周年集会を約300人で行うことに係る許可を求めるものであった。約300人という人数が本件広場の収容能力を超えるとか、本件広場に物理的支障を与えるようなものとはいえず、人数面で不許可とする理由はないと考えられる。実際、被上告人からも、本件集会による物理的支障は全く主張されていない。また、本件集会が予定されていたのは祝日であるから、被上告人の執務に影響を与えることはない。
 また、過去において、本件広場で特定の政策を主張する集会が許可されたことによって、被上告人に苦情・抗議が寄せられた実例があるという主張が被上告人からなされたわけではなく、本件集会を許可することに対する被上告人への苦情・抗議のおそれは、過去の実例に基づく具体的なものではない。
 結局、本件広場を本件集会のために使用することを不許可にした理由は、もし本件集会を許可した場合、被上告人が本件集会の内容を支持している、あるいは本件集会を行う者を利しているなどと考える市民が、被上告人の中立性に疑問を持ち、被上告人に対して抗議をしたり、被上告人に非協力的な態度をとったりして、被上告人の事務又は事業に支障が生ずる抽象的なおそれがあるということに尽きる。しかし、次のとおり、そのような理由は、「正当な理由」には当たり得ないと考えられるから、本件不許可処分は違法であり、これと異なる原審の判断には地方自治法244条の解釈適用を誤った違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるといわざるを得ないから、原判決は破棄を免れない。