判例タイムズ1508号で紹介された裁判例です(札幌地裁令和4年5月26日判決)。

 

 

マンションの区分所有者の配偶者である原告が,管理組合の理事長である被告に対し,マンションの管理規約に基づき,通帳等の閲覧を求めたという事案です。区分所有者本人が閲覧請求せずに配偶者(原告)が請求した事情については判決文でも指摘されていないので不明です。

 

 

本件の管理規約では、「理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿、及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。」と定めていました。

 

 

判決は次のとおり判示して,原告は本件マンションの管理について区分所有者たる組合員に準ずる管理規約上の地位を有する者であって、その地位に基づき管理組合に対して会計帳簿等の閲覧を請求する法律上の利害関係があると認められるとしています。

・本件管理規約は、会計帳簿等の閲覧請求権者を「組合員又は利害関係人」という一定の範囲の者に限定しているが、この限定は、閲覧請求の対象となる会計帳簿等には本件マンションに居住する者の個人情報や本件マンションの防犯上重要な情報等が含まれるところ、これらの情報が閲覧請求制度の上記目的を達するのに必要な範囲外の者に取得されることを防止するためと解される。
・以上の本件管理規約69条の趣旨に照らせば、同条の「利害関係人」とは本件マンションの管理について区分所有者たる組合員に準ずる管理規約上の地位を有する者であって、その地位に基づき管理組合に対して会計帳簿等の閲覧を請求する法律上の利害関係があると認められる者をいい、単にその閲覧につき事実上の利害関係を有するにすぎない者を含まないと解するのが相当である。
・原告は本件マンションの区分所有者の配偶者であり、同人の区分所有建物で同人と同居している者であるが、本件管理規約上は「占有者」又は「同居人」に区分される(本件管理規約2条3号は「占有者」を区分所有法6条3項の占有者と定義するが、同項の占有者には区分所有者の同居人も含まれると解されるから原告は規約上、いずれの地位も有している。)。
・本件管理規約は、区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者が総会の目的について利害関係を有する場合には、当該占有者に総会での意見陳述を認め(50条2項)、組合員の同居者を議決権の代理行使の適格者とする(51条5項)など、正当な権原を有する占有者や区分所有者の同居者に一定の地位を与えるとともに、占有者は区分所有者が規約及び総会決議に基づいて負う義務と同一の義務を負い(5条2項)、占有者・区分所有者の同居人による規約違反行為や共同生活の秩序を乱す行為等に対し、理事長が勧告・行為の差止請求その他法的措置を講ずることができる旨定める(72条)など占有者や同居人にも区分所有者に準ずる共同生活上の義務を課している。また、本件管理規約は、理事及び監事の被選任資格を「現に居住する組合員(配偶者を含む。)」と定め(40条2項)、組合員の配偶者には、上記占有者・同居人としての地位に加え、管理組合の役員として組合の運営に主体的に参画する地位を与えている。
・以上の本件管理規約の定めによれば、区分所有者の配偶者として本件マンションに居住する原告は、本件マンションの管理について区分所有者たる組合員に準ずる地位を管理規約によって与えられている者といえる。
・また、原告は、本件訴訟により、記帳済みの通帳やサロン開催に係る収支内訳等の書類の閲覧を請求しているが、これらの閲覧請求によって会計処理に不適切な点が発見されれば、原告は、議決権の代理行使者として総会に出席して意見を述べ、又は自らが理事又は監事に就任することにより本件管理組合の会計業務の是正を求めることができる地位にあるから、このような地位を区分所有者の意思に基づく自治的規範である本件管理規約によって与えられている原告による会計帳簿の閲覧請求は、法律上の利害関係に基づくものといえる。