金融商事判例1666号で紹介された裁判例です(東京地裁令和4年11月9日判決)。

 

 

本件は,ログハウスの建築請負などを行っていた破産会社が,破産手続き前において,銀行との間で行った合意が,破産法71条1項2号に該当するかが問題となったものです。

 

 

破産法

(相殺の禁止)

第71条1項 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。

 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。

 

破産法71条1項2号が規定する典型的な場面としては,支払いができなくなった債務者に対して債権を有する債権者が,債務者との間で相殺できるように新たに債務を負担することで実質的に自らの債権の回収をしてしまうこと,たとえば,支払いができなくなっている債務者から商品を購入して売買代金債務を負担し,自らの債権と相殺してしまうような行為がこれにあたります(大阪地裁平成30年5月21日判決など)。

 

 

本件で行われたのは,破産会社の銀行口座に入金された金員(預金)について,別段口座という特別な口座で保管してその後貸付金と相殺したというものです。

もともとの流れとしては,破産会社が顧客から建築を請け負うと,破産会社はまず下請に対して支払いをしなければならないので,その資金を銀行から融資を受け,その後顧客が住宅ローンの融資を受けて破産会社の銀行口座に送金されると,先に受けた融資と相殺するという流れでした。

しかし,破産会社とのリスケの交渉において,当該銀行は,顧客からの入金があった場合にすぐに融資と相殺するという扱いを止めて,別段預金として一旦保管しておくという取扱いとしたのです。

なぜこのような取り扱いとしたのかについて,破産会社は別の金融機関(メインバンク)とのリスケ交渉で「融資残高は維持するように」という要請を受けて,当該銀行が協力するための方策として提案し合意されたものでした。メインバンクとしては,自行の融資はリスケしているのに,他行の融資が返済されているというのでは困るという体裁を気にしたのかもしれません。

破産会社としては,別段預金にされたところで自分で使えるお金がないのとは同じことですが,あくまでも融資の返済には充てられていないので,融資残高としてはそのまま維持されているということになります。

 

 

このような合意について,裁判所は,取引条件が異なる預金として取り扱うこととするものであり,預金の拘束性を高めるものであって,破産法71条1項2号の財産処分契約にあたる余地があるということについては肯定しています。

しかし,合意がされたるまでの流れと同じく,そもそも顧客からの請負代金の振り込みが当該銀行の債務負担原因となっていることには変わりはないこと,振り込まれた時点で当該銀行には相殺の期待が生じており,その時点で相殺が可能であったことや当該銀行が合意後に当該銀行口座に振込するように指示していたような事情もなかったことなどから,本件において,別段預金に振り替えるという合意が破産法71条1項2号の財産処分契約には当たらないと結論付けています。