判例タイムズ1503号で紹介された最高裁決定です(最高裁令4年6月21日決定)。

 

 

【本件の経緯】

・日本人同士の夫婦が,3人の子らと共にフランスに移住後,夫が,フランスの司法裁判所に妻との離婚の手続を申し立て,その手続き中に,夫が,妻の了承を得て,子らを連れてフランスを出国し,日本に入国したが,その後,子らをフランスに戻さなかったため,妻の申立てにより,ハーグ条約実施法に基づいて,家庭裁判所は,夫に対し,子らを常居所のあるフランスに返還することを命ずる返還決定をした(確定)。
・前記のフランス裁判所での離婚の手続につき,子らの常居所は夫の住所(日本)に定められ,この判断については仮の執行力を有するものとされた(妻が控訴)。
・妻は,前記の返還決定に基づいて,子らの返還についての強制執行(間接強制)を申し立て(本件申立て),家裁は,夫に対し,子らをフランスに返還することを命じ,夫が同債務を履行しないときは子1人につき1日当たり1万円を支払うよう命ずる決定をした。
・夫が執行抗告をしたところ,原審(高裁)は,本件申立ては前記のフランス第1審本案判決が仮の執行力を有する間は権利を濫用するものとして許されないとして,原々決定を取り消し,本件申立てを却下する決定をした。
・フランスの控訴裁判所は,妻の控訴等について子らの常居所は妻の住所(フランス)と定めた。
・裁判所の執行官が,家庭裁判所による授権決定に基づき,子らを夫から解放し,返還実施者と指定された妻に引き渡し,子らは,フランスに返還された。

 

 

本件は,妻が先に申立てた間接強制について,フランス第1審本案判決が仮の執行力を有する間は権利を濫用するものとして許されないとして,その申立てを却下する決定をした高裁の飯台に対する最高裁判所の決定です。

その後,子らはフランスに返還されているので,この間接強制は取り下げてもらって終わるのが一番楽ではあるのですが,妻が取り下げずそのままになっていたため,この手続をどう決着させるかが問題となりましたが,最高裁は,「本件返還決定に係る強制執行の目的を達したことが明らかであるから、本件申立ては不適法になったものといわなければならない。」として,間接強制の申立自体は却下とした高裁の判断を是認しています。

ただ,高裁が示した理由について,外国における子の監護に関する裁判(しかも、いまだ確定もしていない。)がされたことのみを理由として子の返還の強制執行を許さないとすることは、仮に原決定が指摘するように裁判が適正な審理の下に行われたものであったとしても、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の目的、同条約17条及びこれを受けて定められた実施法28条3項の趣旨に反するおそれがあるものと思料するとして適切ではないという補足意見が付されています。