判例タイムズ1502号で紹介された裁判例です(東京家裁令和3年3月29日判決)。

 

 

本件は,本件は,妻が,夫でに対し,悪意の遺棄及び婚姻を継続し難い重大な事由がある(民法770条1項2号,5号)と主張して離婚を求めるとともに,長男の親権者を妻と定めることや養育費の支払いを求めたというものです。

 

 

本件の特色は,妻(母)がD及び日本の二重国籍を有し,夫(父)はチェコ及びEの二重国籍を有し,Dにおいて出産した長男はD国籍及びE国籍を有しており,夫婦は,仕事上の関係から,Fやチェコで共同生活をおくった後,2014年(平成26年)6月頃,長男と共に来日したが,同年10月,夫(父)が日本から出国する形で別居をし,以来,妻(母)及び長男は,日本で共同生活をし,夫(父)は,主に日本国外で生活をしているという状況において,親子間の法律関係の準拠法についてどの国の法律を適用すべきかということが争点となりました。

 

 

親子関係についていずれの国の法律を適用すべきかについては通則法32条が規定しており,子の本国法が父又は母の本国法と同一である場合には子の本国法によることとされているため,父母及び子の本国法が伊賀れかが問題となります。

 

法の適用に関する通則法
(親子間の法律関係)
第32条 
親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。

 

本件で父母はそれぞれ二重国籍でしたが,当事者が複数の国籍を有する場合については通則法38条1項が規定しています。

日本国籍をもつ母についてはその但書により日本法が適用されます。

 

(本国法)
第38条1項
 当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。

 

 

父については,チェコ国籍及びE国籍を有していましたが,国籍を有する国に常居所地はないと認定され,国籍を有している国のうち,最も密接な関係がある国について検討し,チェコ在住のチェコ人の両親の下に生まれてチェコ国籍を取得し,約24年間両親や親族と共に同国で育ったことなどの事情から,父にとって最も密接な関係がある国はチェコであると認められるから,チェコ法がその本国法となるとされました。

 

 

次に,長男の本国法につき,長男が,D国籍及びE国籍に加え,チェコ国籍を有しているかどうかを検討し,長男は,チェコで生まれ育った父の子であり,「チェコにルーツがあることが証明されている外国人」と認定され,チェコの永住許可を受けており,その後,父は,母と共にチェコの市役所に行き,担当事務官の面前で妻がサインした同意書を提出し,長男のチェコ国籍の取得を申請し,長男はにチェコ国籍を取得し,長男は,チェコ国籍を有するものと認定されました。
さらに,長男の常居所地は日本であり,国籍を有している国のうちに常居所地がないため,そこで,長男が国籍を有している国のうち,最も密接な関係を有する国がいずれであるかを検討し,国籍取得前とはいえ,これまで合計約2年半にわたりチェコに居住している上,出生の翌年にはチェコの永住権を取得し,チェコに親族が存在するほか,来日後も,夏や冬の長期休暇には度々チェコの被告の親族に会いに行っていることなどからすれば,長男にとって最も密接な関係がある国はチェコであると認められ,チェコ法が長男の本国法となるものとしました(通則法38条1項本文)。

 

 

父と長男に共通するチェコ民法が本件において適用すべき本国法となり(通則法32条),チェコ民法では,子の両親は親責任として権利と責任を有するところ,このことは離婚によって失われるものではないから,本件においても,父母は,長男に対し,離婚後も親責任を有するとされていることから(共同親権),母が求めた単独親権については判決せず,ただ,離婚についてのみ認容しています。

 

 

そして,監護権については,裁判所は,一方の親による単独監護,交代監護又は共同監護に子を委ねることができる。また,裁判所は,子の利益に照らし必要である場合は,親以外の者に子の監護を委ねることもできるとするチェコ民法の規定により,本件においては母による監護に委ねることを相当としてその旨を判決しています。

 

 

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