判例時報2533号で紹介された裁判例です(大阪高裁令和3年5月21日判決)。

 

 

今でもそうなのかはわからないのですが,私が勉強していた当時の司法試験ではよく出題されるものの実務ではめったにお目にかからない論点として,民法94条2項類推適用,表見代理,そして,民法177条の不動産登記の対抗要件である「第三者」についての背信的悪意者の論点といったものがあります。

 

 

本件はその民法177条の論点に関するものです。

 

 

民法

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

要するに,不動産の所有権などの物権については登記をしなければ「第三者」に対して権利を主張できないということを規定したものですが,登記に遅れたとしても,権利主張する相手方が背信的悪意者に当たる場合には,その者がいくら登記を先に備えていたとしても,「第三者」には含まれず,権利を主張(対抗)できるというのが判例の立場です。

通常の不動産取引であれば,決済と同時に登記に関する書類がやり取りされ,その日のうちに登記所に持ち込んで登記手続きをしますから,このようなことは問題とはならないのですが,本件は,土地を時効取得した原告が,この点について係争している最中に,根抵当権設定との登記がされたうえ,根抵当権が譲渡されたという事案でした。つまり,原告としては,登記したくとも,判決が確定して自らへの所有権移転登記ができるようにならなければ登記ができないという立場でした。

 

 

本件で「背信的悪意者」とされた被告は,根抵当権登記の譲渡を受けた者でしたが,判決では,前者(すなわち当初の根抵当権設定者)が善意(事情を知らない者)であったとしても,その転得者(被告)が原告との関係で背信的悪意者であるといえる場合には,民法177条の「第三者」から排除されるとした上で(最高裁平成8年10月29日判決を引用),本件と同様に時効取得と背信的悪意者が論となった事案における判例(最高裁平成18年1月7日 所有権と根抵当権の対抗関係が問題となった本件と異なり,所有権同士の対抗関係が問題となった事案)の「甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。」との説示を引いて,本件の根抵当権の譲渡を受けた者は背信的悪意者に当たるとしています。

 

 

その根拠となる事情としては,問題とされた土地の古くからの経緯をもとに,被告は原告が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,原告について本件土地を時効取得する判決が出て未確定のうちにこれを知りながら根抵当権の譲渡を受けていたことなどをあげています。

 

 

修習生って表見代理が好きだよね。 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)