判例タイムズ1497号などで紹介された最高裁判決です(令和4年2月7日判決)。

 

 

下記で地裁判決を紹介ましたが,控訴審である東京高裁も一審判決を是認したため(令和2年12月8日判決),最高裁に上告がなされたものです。

 

 

あはき法附則19条1項の憲法適合性 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

最高裁判決においても,次のとおり判示がされて,憲法22条1項に違反しないとの判断が示されています。

 

 

1(1) 本件規定は,法の下での養成施設等の位置付けに照らせば,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものの設置及びその生徒の定員の増加について,許可制の性質を有する規制を定め,直接的には,上記養成施設等の設置者の職業の自由を,間接的には,上記養成施設等において教育又は養成を受けることにより,免許を受けてあん摩,マッサージ又は指圧を業としようとする視覚障害者以外の者の職業の自由を,それぞれ制限するものといえる。
  (2) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由も保障しているところ,こうした職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,その同項適合性を一律に論ずることはできず,その適合性は,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ,その合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものである。
 一般に許可制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定し得るためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(以上につき,最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照。)。
  (3) 本件規定は,その制定の経緯や内容に照らせば,障害のために従事し得る職業が限られるなどして経済的弱者の立場にある視覚障害がある者を保護するという目的のため,あん摩マッサージ指圧師について,その特性等に着目して,一定以上の障害がある視覚障害者の職域を確保すべく,視覚障害者以外の者等の職業の自由に係る規制を行うものといえる。上記目的が公共の福祉に合致することは明らかであるところ,当該目的のためにこのような規制措置を講ずる必要があるかどうかや,具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを判断するに当たっては,対象となる社会経済等の実態についての正確な基礎資料を収集した上,多方面にわたりかつ相互に関連する諸条件について,将来予測を含む専門的,技術的な評価を加え,これに基づき,視覚障害がある者についていかなる方法でどの程度の保護を図るのが相当であるかという,社会福祉,社会経済,国家財政等の国政全般からの総合的な政策判断を行うことを必要とするものである。このような規制措置の必要性及び合理性については,立法府の政策的,技術的な判断に委ねるべきものであり,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重すべきものと解される。
  (4) 以上によれば,本件規定については,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白な場合でない限り,憲法22条1項の規定に違反するものということはできないというべきである。
 2(1) 前記事実関係等によれば,視覚障害がある者は,その障害のために従事し得る職業が限られ,一般的に就業率も高くないところ,あん摩マッサージ指圧師は,本件規定の施行以前から,その障害にも適する職種とされ,その多くが職業として就いていた。その後,視覚障害がある者のうちあん摩マッサージ指圧師の数及びその割合は減少傾向にあるものの,本件処分当時においても,あん摩マッサージ指圧師は,視覚障害がある者のうち相当程度の割合の者が就き,また,その障害の程度が重くても就業機会を得ることのできる,主要な職種の一つであるということができる。現に,あん摩マッサージ指圧師は,障害者の雇用の促進等に関する法律48条1項及び同法施行令11条により,所定の視覚障害がある者に係る特定職種(労働能力はあるが障害の程度が重いため通常の職業に就くことが特に困難である身体障害者の能力にも適合すると認められる職種)として定められている。その一方で,あん摩マッサージ指圧師のうち視覚障害がある者以外の者の数及びその割合やあん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等の定員のうち視覚障害者以外の者の割合は増加傾向にあり,また,あん摩マッサージ指圧師のうち視覚障害がある者の収入はそれ以外の者よりも顕著に低くなっている。
 これらの事情に加えて,視覚障害がある者にその障害にも適する職業に就く機会を保障することは,その自立及び社会経済活動への参加を促進するという積極的意義を有するといえること等も考慮すれば,視覚障害がある者について障害基礎年金等の一定の社会福祉施策が講じられていることを踏まえても,視覚障害がある者の保護という重要な公共の利益のため,あん摩マッサージ指圧師について一定以上の障害がある視覚障害者の職域を確保すべく,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増加を抑制する必要があるとすることをもって,不合理であるということはできない。
  (2) あん摩マッサージ指圧師免許を受けるには,認定を受けた養成施設等において教育又は養成を受ける必要があるものとされていること(法2条1項)からすれば,上記の抑制のため,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものについての認定又はその生徒の定員の増加の承認をしないことができるものとすることは,規制の手段として相応の合理性を有する。
 そして,本件規定は,上記養成施設等の設置又はその生徒の定員の増加を全面的に禁止するものではなく,文部科学大臣又は厚生労働大臣において,諸事情を勘案して,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときに限り,上記の認定又は承認をしないことができるとするものにとどまる。さらに,その旨の処分をしようとするときは,あらかじめ,学識経験を有する者等により構成される医道審議会の意見を聴かなければならないものとして(法19条2項),当該処分の適正さを担保するための方策も講じられている。
 また,あん摩,マッサージ又は指圧を業としようとする視覚障害者以外の者は,既存の養成施設等において教育又は養成を受ければ,あん摩マッサージ指圧師国家試験に合格することにより,免許を受けることが可能である。そして,前記事実関係等によれば,本件処分当時においても,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等で視覚障害者以外の者を対象とするものは,10都府県に合計21施設あり,その1学年の定員は合計1239人と相当数に及んでおり,その定員に対する受験者数の割合も著しく高いとまではいえないことからすれば,本件規定による上記の者の職業の自由に対する制限の程度は,限定的なものにとどまるといえる。
 (3) 以上によれば,本件規定について,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白であるということはできない。
 3 したがって,本件規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。