判例時報2519号で紹介された裁判例です(東京地裁令和3年1月21日判決)。

 

 

建物の賃貸借契約を更新する際,更新料と共に更新事務手数料を支払わなければならないことがありますが,更新契約を締結してその際に事務手数料についても支払いを合意しているというわわけではなく,法定更新された場合にも支払いが必要となるのか(消費者契約法10条に基づき無効となるか)が争点の一つとされたのが本件です。なお,本件では,賃貸借契約において,「更新諸費用」」を,合意更新又は法定更新のいかんに関わらず支払う旨が記載されていました。

 

 

消費者契約法

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条
 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

 

本件は第一審が簡裁事件であり,簡裁は消費者契約法10条に反するとして法定更新の場合の更新事務手数料の支払いを認めませんでしたが,控訴審(地裁)では,次のとおり,判断を覆しています。

・「標記更新諸費用」が,本件契約書の冒頭の表中の更新料及び更新事務手数料を指すことは明らかであることを考慮すると,控訴人及び被控訴人は,合意更新であるか法定更新であるかを問わず,本件賃貸借契約を更新する場合には,上記金額の更新料及び更新事務手数料を支払う旨を,一義的かつ具体的に規定された契約書を取り交わすことにより合意したものと認められる。

・控訴人及び被控訴人が本件合意更新の際に取り交わした更新契約書には,期間満了後に更なる合意更新を行う場合,被控訴人が控訴人に対して更新料として新賃料の1か月分である7万9000円を支払い,更新事務手数料として3万9500円を支払う旨が記載されていることに加え,被控訴人は,法定更新の場合であっても,期間満了後もなお継続して本件物件を賃借する場合,更新料の支払義務がある旨や更新契約書に記載のない事項については原契約のとおりとする旨が記載されており,控訴人及び被控訴人は,本件合意更新において,本件更新事務手数料条項の支払義務に関する合意内容を含め,本件更新料等条項の内容を引き継ぐ旨を明示的に合意している。
・このように,本件賃貸借契約及び本件合意更新は,更新料及び更新事務手数料の支払義務が法定更新の場合においても生じる旨が一義的かつ具体的に規定された書面を取り交わすことにより締結されたといえる。

・本件更新料等条項により被控訴人が支払義務を負う更新料及び更新事務手数料の額及びその約定の遅延損害金の割合については,いずれも,本件賃貸借契約の賃料額や賃貸借契約が更新される期間(本件合意更新においては,契約期間が2年間更新されている。)に照らして高額に過ぎるという事情は認められない。

・本件更新事務手数料は,法定更新の場合においても契約の更新に伴って一定の事務手続が発生し得ることを前提として,契約更新に伴う手数料として支払われるものであると考えられ,また,本件更新事務手数料は,上記の契約更新に伴う手数料としての性質に加え,賃料の補充や権利金の補充あるいは更新承諾の対価等の性質も複合的に有するものと解される。上記の本件更新事務手数料の性質にも照らすと,被控訴人は,法定更新の場合においても,控訴人が契約更新に伴って一定の事務作業を現に行ったかにかかわらず,控訴人に対して本件更新事務手数料を支払う義務を負うと解するのが相当であり,被控訴人の上記主張は採用できない。