判例タイムズ487号などで紹介された最高裁判決です(最高裁令和3年3月18日)。

 

 

医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以前は薬事法と呼ばれる法律が改正されたもの)36条の6第1項及び3項は,薬局開設者又は店舗販売業者において,要指導医薬品(法4条5項3号)の販売又は授与をする場合には,薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず,これができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない旨を定めているところ,インターネットでの販売事業を行う事業者が,この規定の憲法適合性が争われた事例です。

 

 

具体的には,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定によって,憲法22条1項で認められている職業活動の自由を侵害していると主張したものです。

 

憲法
第22条1項 
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

判決では,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,その憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず,その適合性は,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならず,この場合,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ,その合理的裁量の範囲については事の性質上おのずから広狭があり得るとする従来の判例の立場に立ったうえで,

法が定める,医薬品等の品質,有効性及び安全性の確保並びにその使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うこと等により,保健衛生の向上を図るという立法目的について,医薬品は,治療上の効能,効果と共に何らかの有害な副作用が生ずる危険性を有するところ,そのうち要指導医薬品は,製造販売後調査の期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず,需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品である。そのような要指導医薬品について,適正な使用のため,薬剤師が対面により販売又は授与をしなければならないとする本件各規定は,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり,このような目的が公共の福祉に合致することは明らかであるとし,

また,要指導医薬品は,医師又は歯科医師によって選択されるものではなく,需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり,上記のとおり,このような医薬品としての安全性の評価が確定していないものであるところ,上記の本件各規定の目的を達成するため,その販売又は授与をする際に,薬剤師が,あらかじめ,要指導医薬品を使用しようとする者の年齢,他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認しなければならないこととして使用者に関する最大限の情報を収集した上で,適切な指導を行うとともに指導内容の理解を確実に確認する必要があるとすることには,相応の合理性があるというべきであること,また,本件各規定は,対面による情報提供及び指導においては,直接のやり取りや会話の中で,その反応,雰囲気,状況等を踏まえた柔軟な対応をすることにより,説明し又は強調すべき点について,理解を確実に確認することが可能となる一方で,電話やメールなど対面以外の方法による情報提供及び指導においては,音声や文面等によるやり取りにならざるを得ないなど,理解を確実に確認する点において直接の対面に劣るという評価を前提とするものと解されるところ,当該評価が不合理であるということはできないとしました。

さらに,一般用医薬品等のうち薬剤師の対面による販売又は授与が義務付けられているのは,法4条5項3号所定の要指導医薬品のみであるところ,その市場規模は,要指導医薬品と一般用医薬品を合わせたもののうち,1%に満たない僅かな程度にとどまっており,毒薬及び劇薬以外のものは,一定の期間内に一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされているのであって,本件各規定による規制の期間も限定されていて,このような要指導医薬品の市場規模やその規制の期間に照らすと,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定は,職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより,その制限の程度が大きいということもできないとして,本件規定は憲法に違反しないという結論を導いています。