令和3年(2021年)4月21日、民法の一部を改正する法律と相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が成立し、4月28日に公布されています。施行については公布日から2年以内とされています(相続登記の義務化等については3年または5年以内の施行)。

 

 

現在の民法でも相続財産についてのいくつか相続財産管理人制度は設けられていますが、そのうち、実務上、もっとも多く活用されていると思われるのは、相続人が不存在の場合に相続財産を清算し、債権者などに分配する相続財産管理人です(現行民法951条以下 「相続人の不存在」の章に設けられています)。

 

 

それに次ぐと思われるのは、相続人がいるものの熟慮期間中であったり、単純承認となったものの適切な管理がなされない場合に民法918条2項に基づき選任されている相続財産管理人です。

現在の東京家裁の後見実務では、被後見人が死亡し、6ヶ月以内に相続人からの引継ぎ書を提出できない場合には、後見人が保管している財産については民法918条2項に基づき相続財産管理人を選任することとしており、その資格で相続財産の管理をさせることとしています。この場合、相続財産管理人は、相続人に相続財産を引き継ぐための管理業務を行うことになり、名称は同じでも先ほどの相続人不存在の場合の相続財産管理人とは役割が異なることになります。

 

 

(相続財産の管理)

第918条2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

 

もっとも、この民法918条2項は規定の位置付け上、相続人が熟慮期間中の場合の相続財産の管理人の選任ができることを規定したことに争いはないものの、相続人が単純承認した場合に管理がなされるまでの期間相続財産を管理するための相続財産管理人の選任までできるのかについては曖昧なところがありました。

東京家裁が肯定する見解に立って実務の運用を始めたのもここ最近のことになります。

 

 

そこで、改正法では、相続人が単純承認した場合であつても、一定の場合(例えば、相続人が一人である場合は除かれます。その相続人が相続財産を管理すれば良いからです)には相続財産の管理人を選任することができるものとしました(改正法897条の2第1項 現行法の918条2項は削除)。

ただ、前記した現在の実務の運用である、被後見人が死亡した後、相続人からの引継ぎ書を取得できない場合に相続管理人による管理に移行するという扱いにつき、相続を承認した相続人が一人である場合に相続財産を引き継がない場合にどう処理するのかというのは新たに解決すべき問題ということになるのでしょうか。

 

改正民法

(相続財産の保存)
第897条の2第1項
 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

 

また、改正法では、相続放棄した者の相続財産の管理についても新たに規定することとしました。

現行法においても、相続放棄した者について、放棄により新たに相続人となる者が管理を開始できるまでの管理の継続を義務付ける規定がありますが(現行民法940条1項)、相続放棄により相続人が全くいなくなってしまった場合や相続財産を把握していない場合にどのようになるのかなどについて不明確なところがありました。

 

現行民法

(相続の放棄をした者による管理)

第940条1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

そこで、改正法では次の通り規定し、相続放棄した者が相続財産を管理すべき場合やその範囲について明確化しています。

 

 

改正民法

(相続の放棄をした者による管理)
第940条第1項
 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。