判例タイムズ1484号で紹介された事例です(東京地裁令和元年12月16日判決)。

 

 

あん摩マッサージ指圧師などについて、視覚障害者への優遇措置が取られており、視覚障害者ではない人が参入することが難しくなっているということはよく知られているところですが、規制の根拠の一つとなっている、視覚障害者以外の者について養成施設で教育をしないことを求めたり、視覚障害者以外を対象とする養成施設の認定をしないことを定める法19条1項についての合憲性が問題となったのが本件です。

視覚障害者以外の者を対象とする養成施設の設置認可が不許可とされたことから、提訴されたものです。

 

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律

第19条1項 当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。

 

憲法22条1項は職業選択の自由を保障しており、許可性は、職業選択の自由そのものを制約するものであり、強力な制限であることから、その制約が合憲てされるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するとされます。

 

憲法

第22条1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

他方で、憲法は、生存権を保証するなど、経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請しており、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定していることから、その一手段として職業の自由に対する一定の合理的規制措置を講ずることはもともと憲法が予定し、許容しているものであるといえます。

そして、そのような判断は、立法府の政策的、技術的な判断に委ねるべきであり、裁判所としては基本的にはその最良的な判断を尊重すべきものとされます。

 

 

判決では、このような基本的なスタンスのもと、制定から50年が経過し「当分の間」と定められている上記法19条1項の規制の合憲性について検討し、制定当時に比べて障害者に対する年金制度が拡充されたり法制度が整備されたり、技術の普及によって視覚障害者にも職業選択の道が開かれるようになったとはいえ、視覚障害者にとってあん摩マッサージ指圧師業の重要度が保護を必要としない程度にまで低下したといった事情は未だに認められず(現在でも重度の視覚障害者の7割超があん摩マッサージ指圧、はり、きゅう業に依存している状況)、柔道整復師においては、養成施設の不許可処分を違法とする判決が下されて以降大幅に養成施設や定員が増加しており、本規制がなくなれば、視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師が増加することも予想されるのであり、視覚障害者の生活の保護を目的とした法の規制の正当性は未だ失われていないと判断しています。