判例タイムズ1481号で紹介された二つの事例です(①東京高裁令和2年11月11日判決②東京高裁令和2年12月9日判決)。

二つの判決ですが,東京高裁の同じ部が出したもので,裁判長,左陪席裁判官は同一です。

 

 

問題となった投稿は,①事案では転職口コミサイトに「役員に意見しようものならやってもいないことをでっち上げられて辞めさせられる」「理不尽なことで社員全員の前で叱り飛ばして謝罪させる」などいった投稿,②では「勧誘を断られた顧客に対してしつこく電話勧誘を行っている」「塗装がはがれたので保証対応を求めたがあり得ない理由で応じようとしなかった」などというものです。

 

 

これらの投稿者を特定するために,いわゆるプロバイダ責任制限法によって投稿者の情報の開示を求めたのが本件ですが,いずれの場案でも第一審判決は請求を棄却したのに対し,控訴審判決では請求を認めて情報の開示を命じています。

 

 

いずれの投稿も投稿された者の社会的評価を低下させるものでありその名誉が毀損されたといえること,また,投稿については専ら公益を図る目的でなされたものであることは認められましたが,問題となったが,それらの投稿が真実であるかどうかという点で違法性を阻却するといえるかという点でした(真実であるとすれば違法性が阻却されるので名誉の侵害にはならないため投稿者の情報の開示請求は認められないことになる)。

 

 

プロバイダ責任制限法において投稿者の情報開示を求めるためには,請求者が投稿について違法性性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在がないことまで請求者が主張立証しなければならないとされており,本件において,請求者は①事案においは役員や従業員の陳述書を提出し投稿されたような事実が存しなかったことを主張し,②事案においては社内で勧誘を断った人に対しては再度の勧誘をしないようにしている勧誘禁止リストを提出して,そのような事実がなかったことを主張しました。

 

 

第一審判決では,そのような証拠では,投稿が真実である可能性を否定できないとして,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないとはいえないとして請求を棄却したものですが,控訴審判決では,法4条において,権利侵害された者と発信者間の訴訟においては,本来,違法性阻却事由として発信者が主張・立証しなければならないものを,発信者情報開示請求訴訟においては,請求原因として権利侵害された者の主張立証責任であると定めたのは,発信者情報が発信者のプライバシーに関する事柄であって,発信者の匿名性を維持しつつ,発信者自身の手続参加を予定していない訴訟構造の中で発信者のプライバシー及び表現の自由の利益と権利侵害された者の権利回復を図る必要性との調和を図るための措置であると解される。したがって,法4条の「権利侵害が明らか」についての解釈においても,権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっているというべきであるとし,

・①事案においては,役員らの陳述書によって投稿の内容が真実ではないことの立証が一応できているとした上で,プロバイダ側が提出してきた投稿者からの回答書の内容を検討し,自己の体験を述べた形式とはなっているものの抽象的な事実にとどまり日時や人物の特定もないことから請求者が反論できる内容となっておらず,中途半端な回答書に対しておよそそのような事実はないという不可能に近い立証を強いることになり相当ではない

・②事案においては,請求者が提出したリストがあったからといって再度の電話勧誘がされてしまう可能性を否定することはできないが,不可能に近い立証を強いることは相当ではなく,プロバイダ側が提出した国民生活センターの苦情内容を見ても再度の電話勧誘について記載されている事例は記載されていないこと

から,いずれの事案においても,権利侵害の要件は一応立証されているとして,投稿者の条項の開示を命じています。

 

 

顧問先からの相談として,問題のある投稿がなされどのように対処すべきかということがあります。

投稿されたことが真実ではないことの立証まで求められるのでは到底投稿者の特定などはできないわけですが,このような裁判例があることも念頭に対処を検討すべき必要がありそうです。