判例タイムズ1406号などで紹介された判例です(最高裁平成26年6月日判決)。

 

 

事案を単純化すると,販売窓口である銀行を通じて投資信託を購入していた者が支払い停止となり(当該銀行に対する保証債務として約5954万円),銀行がその回収の為に,その者が有していた投資信託の解約実行請求権を債権者として代位行使し,振り込まれた解約金の支払債務を負担し(投資信託はその受益権を権利者が銀行を通じて解約実行請求し,振り込まれて解約金を銀行は権利者に対し支払う義務を負う),前記保証債務に係る債権と相殺を主張したというものです。

 

 

これに対して,支払い停止後になされた相殺であって民事再生法93条1項3号に規定する相殺禁止に抵触すると争われたのが本件です。

高裁判決では,同条項同号のの相殺禁止に抵触するとしても,支払い停止前に銀行との間で契約されていた投資信託の管理委託契約に基づき解約金が銀行に交付されたことで発生する債務であるから民事再生法93条2項2号に該当するとして相殺が許されるとしていました。

 

 

民事再生法

(相殺の禁止)
第93条
 再生債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
三 支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。

 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。
 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは再生手続開始の申立て等があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因

 

 

最高裁は本件での相殺は許されないものと判断しています。

民事再生法で相殺が禁止されているのは,再生債権者の相殺に対する合理的期待を保護するもので,債務者の経済状態が危なくなってから何らかの債務を負担することで相殺することが許されないとすることで再生債権者間の公平,平等な取り扱いを確保しようとしたものです。

本件でそのような合理的期待が認められない事情として,

・解約実行請求がされるまでは当該投資信託受益権は再生債務者の責任財産として再生債権者が等しくその期待を有していたといえること(本件銀行だけがそこから回収を図れるものであったとはいえない)

・投資信託の振替先は自由に変更することができるものとされていたこと(本件の銀行の口座に解約金が振り込まれることは確実であったはいえない)

・本件の銀行は他の債権者と同様の立場で債権者代位権を行使することで解約実行請求を行うほかなかったこと

をあげています。