判例タイムズ1480号で紹介された事例です(最高裁令和2年9月2日決定)。

 

 

本件は、担保不動産の競売手続きにおいて、事前に、入札する金額の範囲も示されて、不動産を競落してその後自らに転売するように依頼を受けていたのに、事前に聞いていた入札予定額を上回る金額で当の依頼者本人が入札したため、自らはそれに次ぐ買受け申出人となってしまったと主張する者が、売却不許可事由があるとして執行抗告を行なったという事案です。

 

 

民事執行法74条は、売却許可(不許可)決定に対しては自己の権利が害されることを主張するときに限り執行抗告をすることができるとさだめ(1項)、また、売却許可決定に対する執行抗告については法71条各号に掲げる事由(又は手続きの重大な誤り)があることを求めています。

 

 

民事執行法

(売却の許可又は不許可の決定に対する執行抗告)

第74条 売却の許可又は不許可の決定に対しては、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り、執行抗告をすることができる。

 売却許可決定に対する執行抗告は、第七十一条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由としなければならない。

3項以下略

 

そして、法71条4号イは、最高価買受申出人が法65条1号に規定する行為をした者である場合には売却不許可とすべきことを規定しています。

 

(売却不許可事由)

第71条 執行裁判所は、次に掲げる事由があると認めるときは、売却不許可決定をしなければならない。

 最高価買受申出人、その代理人又は自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者が次のいずれかに該当すること。

イ その強制競売の手続において第六十五条第一号に規定する行為をした者

 

法65条一号は、売却の適正な実施を妨げる行為をしたことについて規定しています。

 

(売却の場所の秩序維持)

第65条 執行官は、次に掲げる者に対し、売却の場所に入ることを制限し、若しくはその場所から退場させ、又は買受けの申出をさせないことができる。

 他の者の買受けの申出を妨げ、若しくは不当に価額を引き下げる目的をもつて連合する等売却の適正な実施を妨げる行為をし、又はその行為をさせた者

 

条文操作が回りくどくなりましたが、入札価格を示して競売への参加を依頼しておきながら、自らそれを上回る金額で入札して最高価買受人となったのはこれらの条文に該当し、売却許可決定に対する執行抗告が認められるかが争点となりましたが、本件では、次順位の買受申出人には執行抗告の利益がないと判断されています。

 

 

最高価買受申出人に売却不許可事由があると主張して執行抗告をすることにつき、最高裁の基本的な考え方としては、売却不許可事由があるとしても次順位の買受申出人が当然に売却許可決定を得られるわけではなく、再度競売手続きをやり直すことになるに過ぎず、次順位の買受申出人は自己の権利を害されたものとはいえないと判断されています。

 

 

次順位の買受申出人がかわいそうな気もしますが、自らの行為によって契約(競売で取得した不動産を転売してもらってニュぅ酒するという契約)を反故にしたとして、仮に競落していれば得られていたであろう逸失利益を損害として賠償請求するなどの方法のほうが本件では実体に見合った救済になるといつた価値判断もあったようにも考えられます。