通知税理士という制度があります。

 

 

弁護士法により弁護士は「当然」税理士の事務を行うことができるとされています。

この規定は昭和24年の弁護士法改正により新設されたものですが,当時から弁護士が税務を行うことについて,弁護士が必ずしも税務処理の能力を担保されているものではないのではないかという懸念があり,とりわけ当時の大蔵省からの反対が強かったようで,衆議院が一度可決した原案を参議院が否決し,衆議院が3分の2以上の多数で再可決して成立するという立法過程をたどっています。

 

(弁護士の職務)

第3条2項 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。

 

前記の懸念は根強く,その後昭和26年の税理士法制定の際に,主務官庁の監督を及ぼす趣旨からも解けられたのが通知税理士制度です(税理士法51条1項)。

これは,弁護士が税理士事務を行うために,弁護士会を通じて国税局長に対し通知することを要件として課すとというものです。

通知は各国税局長あてに行い,弁護士会に収める手数料は数百円程度です。

手続き後約1か月程度で通知した国税局長から受理した旨の通知が送付されます。

この通知税理士制度は弁護士法に規定された,弁護士が当然に税理士事務を行うことができるとの規定に反し違法であると訴えた裁判がありましたが(通知していなかった弁護士が税務調査への立会いを拒まれたことから国賠請求を起こした事案),裁判所は前記の立法過程から,税理士法の規定が優先するとして訴えを退けています(大阪高裁平成24年3月8日判決)。

 

 

税理士法

第51条1項 弁護士は、所属弁護士会を経て、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができる。

 

前記の通知をすることで弁護士は税理士事務を行うことができますが,税理士会に所属するわけではないので,税理士会に登録するわけではなく,税理士会費を納めたりその研修を受けたりする義務はありません(税理士法39条に規定されている税理士会の会則を守る義務は,通知税理士の義務からは除かれています)。

 

 

ただ,通知税理士に対しては,次のような規定が設けられ,税理士と同様に義務が課されています。

 

 

税理士法

第51条2項 前項の規定により税理士業務を行う弁護士は、税理士業務を行う範囲において、第一条、第三十条、第三十一条、第三十三条から第三十八条まで、第四十一条から第四十一条の三まで、第四十三条前段、第四十四条から第四十六条まで(これらの規定中税理士業務の禁止の処分に関する部分を除く。)、第四十七条、第四十八条、第五十四条及び第五十五条の規定の適用については、税理士とみなす。

 

脱税相談の禁止(法36条),信用失墜行為の禁止(法37条),帳簿の作成義務(法41条),秘密を守る義務(法38条),助言義務(法41条の3)といった義務が課されるほか,財務大臣による懲戒の手続(44条から47条,48条)については準用されているので,弁護士といえども税理士事務に関しては財務大臣からの懲戒を受けるということになります。

ただ,税理士業務の禁止については除かれさているため,財務大臣から受ける懲戒としては戒告か2年以内の業務停止までということになります。税理士業務の禁止と停止は税理士業務ができなくなるという点では同じですが,禁止については税理士登録の欠格事由となり税理士登録している税理士の場合は登録から抹消されますが,停止の場合はそこまでは至らないという違いがあります。通知税理士の場合はその資格が弁護士資格に当然付随しているものですので,通知税理士としての資格そのものをはく奪するかどうかは弁護士資格自体をはく奪させるかどうかを判断する必要があり,その判断は弁護士会の自治に委ねられているということができます。