判例タイムズ1427号などで紹介された最高裁の判例です(平成28年3月29日判決)。

 

 

信託契約を行うと、不動産などの所有名義は受託者に移転しますが、移転した財産はあくまでも信託財産として扱われ、受託者の財産となるわけではありません。

受託者は、自らの固有財産と信託財産を分別して管理することが求められます。

 

 

受託者に対する債権者は信託財産を引当とすることはできないので、信託財産に対して強制執行等はすることができません(現行信託法23条1項)。

なお、本件は、旧信託法が適用される事案ですが、同様の条文として旧信託法16条1項がありました。

 

 

信託法

(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)

第23条1項 信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。

以下略

 

本件は、簡略化していうと、信託財産である土地の上に受託者の固有財産である家屋が建っており、受託者が当該土地と家屋を他に賃貸していたという状況のもとで、信託財産である土地、固有財産である家屋とその他の土地についての税金(固定資産税等)の滞納があったことから、自治体が賃料債権を差し押さえたというものです。

 

 

賃料債権の中には信託財産である土地に関する部分と固有財産である家屋に関する部分が含まれているはずですが、賃貸借契約上、賃料の内訳は特に示されてはいませんでした。

 

 

まず、現行法と異なり、旧信託法では信託財産に対する滞納処分が制限されるかどうか不明確でしたが、裁判所は滞納処分についても信託財産に対する処分についての制限を受けるものであると解しています。

 

 

その上で、高裁判決では、信託財産である土地についての賃料債権に対しては、固有財産である家屋やその他の土地に関する滞納処分をすることができないのにこれを行ったことには違法があり、差押全体が違法となると判断していました。

 

 

最高裁は、当事者の合理的意思からすると、賃料債権の中には信託財産である土地人する部分と固有財産である家屋に関する部分が分けられていると見るべきで、土地に関する部分については信託財産に含まれるものである、そして、固定資産税については名寄せが行われすべての不動産について一括して賦課されることとなっているものの、不動産の評価額により按分することで、各不動産に該当する固定資産税額を算出することも可能であることから、信託財産であるである土地の固定資産税相当額以外の滞納処分を信託財産である土地に対して行ったことは信託法上の問題があるものの、国税徴収法63条が債権の差押については全額を差し押さえなければならないと規定していることに照らしても、差押全体が直ちに違法となるとはいえないと判断し、高裁の判断を取り消しています。

 

国税徴収法

(差し押える債権の範囲)

第63条 徴収職員は、債権を差し押えるときは、その全額を差し押えなければならない。ただし、その全額を差し押える必要がないと認めるときは、その一部を差し押えることができる。

 

なお、このように解すると本来差し押さえられるべきではない信託財産の土地の賃料部分についても徴収されてしまうことになりますが、この点については充当により当該土地についての税額に係る部分が消滅した場合には、それ以降取り立てた賃料のうち当該土地に関する部分については返還されるべきであり、返還されないときは不当利得として請求することができると判示しています。