最高裁判所 平成5年10月19日判決


未だ離婚が成立していない夫婦については、夫婦とも親権者ですが(共同親権)。いわば,夫婦のいずれもが,未成年の子どもに対し監護すべき権利を有していることになります。


このような場合に、子が一方の親権者のもとで監護されているというとき、不当な身柄拘束からの身柄の解放のための人身保護請求によって子の引渡しを求めることができるかについて問題となった事案です。

【本件の概要】
1 昭和63年2月17日に婚姻した夫婦の案件で、夫婦間には2人の未成年の女の子がいました。
  夫婦関係は次第に円満を欠くようになり、夫(父親)は平成4年8月、子ども2人を連れて夫(父親)の実家宅で生活するようになってしまいます。

2 妻(母親)は、平成4年9月、夫の実家に赴いて子どもたちのの引渡しを求めましたが、これを拒否されたため子どもたちを連れ出そうとしたところ、追いかけてきた夫の父母と路上で奪い合いとなり、結局 、子どもたちは夫の実家に連れ戻されてしまいました。
  
3 妻(母親)は、平成4年9月末ころ、家庭裁判所に対して夫(父親)との離婚を求める調停を申し立てましが、親権者の決定等について協議が整わず、右調停は不調に終わっています。


【コメント】
1 原審は、妻(母親)からの人身保護請求を認めましたが、最高裁は、共同親権に服している未成年についての人身保護請求について厳格に判断するという枠組みを示しました。

2 最高裁は,夫婦がその間の子である幼児に対して共同で親権を行使している場合には、夫婦の一方による右幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情がない限り、適法というべきであるから、右監護・拘束が人身保護規則4条にいう顕著な違法性があるというためには、右監護が「子の幸福に反することが明白であることを要する」ものといわなければならないとしました。

 そして,本件では、子どもたちに対する愛情、監護意欲及び居住環境の点において妻(母親)と夫(父親)らとの間には大差がなく、経済的な面では妻(母親)は自活能力が十分でなく夫(父親)らに比べて幾分劣る、ということから,子供たちが夫(父親)らの監護の下に置かれるよりも、妻(母親)に監護されることがその幸福に適することが明白であるということはできない,としました。

3 未だ離婚が成立していない共同親権に服する未成年の子に対する人身保護請求による引渡請求は,原則として認められないという枠組みを示したといってよいと思います。 
  
  但し,共同親権に服している未成年の子であっても,例外的に人身保護請求によるこの引き渡しを認めた事例もあります。
 
   また,既に離婚成立後,親権(監護権)を有している者から,これを有していない者に対する人身保護請求については,原則として認められることになります。


【掲載誌】  最高裁判所民事判例集47巻8号5099頁 
       家庭裁判月報45巻10号33頁 
       最高裁判所裁判集民事170号89頁 
       裁判所時報1109号232頁 
       判例タイムズ832号83頁 
       判例時報1477号21頁