判例タイムズ1474号で紹介された事例です(東京地裁平成31年3月22日判決)。

 

 

本件は,原告会社の一人株主(投資事業組合)が保有していた他社株式を原告会社が取得し,その役半年後におよそ半額で当該他社に譲渡したというもので,その後原告会社の株式取得した株主が,取得からわずか半年で合理的な理由もないのに半額で売却したのは原告会社に対して損害を与えた行為であるとし,当時の原告会社の取締役と監査役に対して善管注意義務違反による損害賠償請求をしたというものです。

 

 

当時の株式売却に当たっては,一人株主の無限責任組合員である会社の同意のもとに行われており,訴えられた当時の原告会社の取締役らも,当該無限責任組合員の会社の役員や従業員であるという関係でした。

要するに,当時は,原告会社の一人株主がそのような株式の売却をすることに尽き同意していたわけであり,取締役らに善管注意義務違反はないのではないかというのが本件の争点です。

 

 

取締役や監査役が会社に対して善管注意義務を負っているという建前論からすると,あくまでも会社が損をするような取引をすることは許されないともいえそうですが,判決では,一人株主の場合には会社の利益=一人株主の利益であると言えることから,この場合の善管注意義務とは株主の利益を図ることであるといえること,一人株主が意思決定していた場合には当該業務に伴う損害についても許容していたといえること,一人株主の場合にその意思決定に従わなければ解任されるリスクを負う一方で(現実に本件でも取締役は一人株主の無限責任組合員の役員や従業員であったこと),善管注意義務違反も問われるとすると取締役としては身体窮してしまうことから,原則としては,一人株主の同意により行った行為については善管注意義務違反を問われないとしました。

但し,一人株主の利益といっても法令や定款に反することは許されず,会社債権者を害することまでは許されないことから,このような特段の事情がある場合には取締役としては,一人株主にその旨を通知したうえで指示の変更を求める義務があると判断しました。

 

 

そして,本件では,特段の事情があったとは言えないとして,取締役らの善管注意義務違反を否定しています。

 

 

実際のところ一人株主会社(オーナー会社)というのは多く,その役員もオーナーの子飼いが形だけ名を連ねているという会社というのは山ほどあって,現実には,判決が指摘したような特段の事情に当たりそうな件というのもそれなりにあるように思われ,そうした場合に,法令違反や債権者を害する恐れがあるという通知をしたとしてその後どう対応すべきなのかというのは現実世界の問題としては結構悩ましいような気はしますが。。といっても,一人株主に通知をしたからそれで会社債権者らに対する責任を免れるということは考えにくいので,日の場合には取締役や監査役としては責任を問われるということになるのでしょう。