判例タイムズ1475号で紹介された事例です(大阪地裁令和元年6月21日判決)。

 

 

最近は,賃貸物件を借りるにあたって,保証料を支払って家賃保証業者による家賃保証を受けることが多くなっています。

家賃保証業者としては,賃料不払いがあった場合,賃貸人に対して賃料相当額を保証しなければならず,いつまでもそのような状態が続いてはリスクになるので,そのような状況を回避するために賃借人との保証契約の締結に当たって自己が有利になるような条項を盛り込んでおくことになりますが,本件ではそのうちのいくつからの条項が消費者契約法8条1項3号又は10条に抵触し無効であるとして,適格消費者団体により訴訟が提起されたという事案です。

 

 

消費者契約法

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)

第8条1項 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

本判決で無効として認められた条項としては,賃借人が賃料の支払を2か月以上怠り,合理的な手段を尽くしても賃借人と連絡が取れず,ライフラインや郵便物の利用状況から物件を利用しておらず,かつ,再び占有使用しないとの意思が客観的に認めらる事情があるときは,明渡しがあったものとみなして内部の残置物を搬出保管できるという条項につき,これは違法な自力救済を定めたものであり,不法行為による損害賠償の責任を免除させるものであるとしています。

私は,アパートやマンションの賃貸オーナーの側に立つことも多いので,なかなか厳しいなとは思います。現実に生活している住居について内部の家具家電などを運び出すようなことは許されないと思いますが,中には,いなくなってしまってそのままになっているという物件もあるので,本件条項はそのような場合を想定したものとして絞りをかけているとはいえますが,そのような場合であっても,きちんと訴訟提起したうえで強制執行という法律の手続に則って処理しなければならないということです。

一時期,追い出し屋と屋と呼ばれるような悪質な賃貸事業者の行為が問題とされ,立て続けに損害賠償が命じられたりしたことがありましたが,自力救済禁止という原則については強く求められているものと言えます。

 

 

逆に,有効とされた条項としては,賃料の滞納が3か月分以上に達した場合に家賃保証業者に対し賃貸借契約の無催告解除権を与え,解除権の行使について賃借人に異議がないことを確認させる内容の条項については,賃貸人が契約解除しない限りいつまでも賃料不払いによる家賃保証のリスクを負うことを回避するために家賃保証業者に無催告解除権を与えることは格別不合理なことではなく,また,賃借人が無催告解除の効力を争うことを否定するような趣旨ではないとして消費者契約法違反とはならないとの判断を示しています。