株式会社が自由に株主に対する配当などを行うことで会社財産を毀損させて会社債権者が損害を被ることを防止するため,株主に対する分配について規制が設けられています(分配可能額規制・財源規制)。

 

 

規制の対象となるのは,剰余金の配当(会社法461条1項8号)のほか,自己株式の有償取得について一定のもの(同項1号乃至7号)になります。自己株式の取得のうち,単元未満株式の取得(会社法155条7号)や吸収合併によって包括承継する財産中に自己株式が含まれていた場合(会社法155条11号),反対株主の株式買取請求に応じる場合(会社法155条13号)などについては規制の適用対象とはなりません。

 

 

規制は会社債権者の為に一定の会社財産を確保するという趣旨からなされるためのものであるため,分配可能額の算出もその趣旨に沿ってなされます。

 

 

分配可能額は,主に貸借対照表の純資産の部に記載された項目を確認操作することで算出していきます。

以下大まかな説明になります。

 

 

貸借対照表の純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」から成りますが(計算規則76条1項1号),このうち「株主資本」というのは,いわば,株主の資産ですので,株主が自由に処分してよいとも思われますが,この中で資本金,資本準備金,利益準備金は分配可能金額の算定基礎から除かれます。自己株式については会社債権者が引き当てとして期待すべきものとはいえないので,純資産の控除費目とされます。

 

 

資本金についてはその額は会社財産として債権者に対する引き当てとされるべき枠としての機能を有しています(資本維持の原則)。なお,資本維持の原則といっても,現実に会社財産として資本金に相当する額の財産が確保されているということを意味するわけではなく,あくまでも純資産額が資本金を割り込んでいる場合には配当等ができないという意味で,会社債権者保護のための一定の「目安」となるということに過ぎないことは注意しておく必要があります。また,株式会社であれば最低でも1000万円の資本金を必要とするとするという最低資本金額制度は平成17年の会社法制定と共に撤廃されていますが,会社債権者保護の観点から,純資産額が300万円に満たない会社は株主に対する分配をおなうことができないというものとされています(会社法458条,461条2項6号・計算規則158条6号)。

資本金については,減資することにより,資本準備金又はその他資本剰余金の額を増加させることができます(その他資本剰余金が増加されずその分だけ分配可能額が増え,また,資本準備金を増加させた場合もその後にこれを減少させる手続きが容易となるため潜在的に分配可能額が増加するものといえる)。

 

 

同様に,会社債権者に対する引き当てされるべき基準として,準備金が設けられており,

・資本準備金(株主となるものが払い込みをした額のうち資本金として計上されなかった額・会社法445条2項/また資本準備金を減資として配当をする場合の一定の額)

・利益準備金(会社がその他利益余剰金を原資として剰余金の配当をする場合の一定の額)

についても,分配可能額の基礎としての算定から除かれます。

資本金の減少(減資)と異なり,準備金については,債権者異議手続を経ずにその額を減少させることができるという点で違いがありますが,分配可能額を画する基準となるという機能は同じです。なお,資本金と同じく,準備金についても,現実に会社にそれだけの資産があるということではなく,あくまでも計算上,会計上の概念であるものです。

 

 

これらの資本金,資本準備金,利益準備金は,株主資本といいつつも,いわば,「会社債権者の取り分として確保しておくべき額」として,この額は株主への分配に回すことができないことになります。

 

 

結局,株主資本のうち,分配可能額として計算に当たっての基礎となるのは,剰余金となります。剰余金は,その他資本剰余金とその他利益剰余金から成ります。

そこで,分配可能金額の計算に当たっては,まず,剰余金を算出することになりますが,最終事業年度の末日における剰余金の額を計算します(会社法446条1号 計算規則149条)。剰余金は,会社が稼いだ利益のうち内部留保にした金額(その他利益剰余金)と自己株式の処分により取得したもの(その他資本剰余金)に分かれます。配当する剰余金の種類によって,前記した準備金の積み増しのルールが異なっているという違いがあります。また,最終事業年度の末日以降の損益取引は剰余金の額に影響せずしたがって分配可能額の計算には影響しませんが,資本取引についてはこれを計算に加味することで剰余金・分配可能額に影響を与えます。

 

 

最終事業年度末日における剰余金の額が1000万円の会社(3月決算)が,6月の定時株主総会で300万円の配当を行った場合,1000万円-300万円-30万円(利益準備金の計上 原則として10分の1を計上することになっている)=670万円が剰余金となります。

最終事業年度末日より後の損益取引は利益剰余金として影響を与えませんが,資本取引があった場合には剰余金の計算に影響します。

例えば,この会社がその後9月に臨時株主総会により20万円の減資をした場合はさきほどの670万円に20万円を加えた690万円がこの会社の剰余金となります。

 

 

こうして算出された剰余金の額を基本として,300万円から剰余金以外の純資産の各項目の合計額を減じた額を控除すること(会社法461条2項6号,計算規則158条6号)などの処理を行って具体的な分配可能金額を計算することになります。

 

 

非常に分かりにくい分野なので,頭の整理が必要なのですが,基本的な利害対立として,株主と会社債権者の利害対立場面を想定し,「分配可能金額」が大きくなればなるほど株主の利益となって会社債権者を害することになり,基本的には純資産の部の「株主資本」の項目のうち「資本金」「準備金」と「その他資本金剰余金・その他利益剰余金」の比率を変えて分配可能金額を増減させる場面・手続き(減資や準備金の組み入れ)と剰余金から算定された分配可能金額について調整を施す場面・手続きに分けて考えると分かりやすいのかなと思っています。