https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55395240X00C20A2CR8000/

 

 

仕事中に人身事故を起こして被害者側に損害賠償をした従業員は、勤務先に応分の負担を求めることができるのか――。こうした論点が争われた訴訟で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は7日、当事者双方の意見を聴く弁論を開いた。判決は28日に言い渡される。会社と従業員の責任分担のあり方を巡り、最高裁がどのような判断を示すかが注目される。

原告の女性は、トラック運転手として運送大手の福山通運に勤務していた2010年、業務中に死亡事故を起こし、被害者遺族に約1500万円の賠償をした。訴訟では同社に賠償金と同額の支払いを求めている。

(2月7日日経新聞から一部引用)

 

業務中の事故ということで,そもそも論として,会社が加入していたはずの保険で処理できなかったのか,どうして従業員自身が先行して賠償金を支払うという流れとなったのかなど経緯を取りたいなという思うところではあります。

 

 

それはそれとして,問題となっている民法の規定は使用者責任を定めた民法715条で,被用者(従業員)が事業の際に不法行為により他人に損害を与えた場合,当該被用者と共に賠償責任を負うことを定めたものです。

人を使用することで事業により利益を得ている以上,損失も分担すべきであるという報償責任の理念から定められたものといわれています。

 

 

(使用者等の責任)
民法第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

被害者との関係では,直接不法行為を加えた被用者(従業員)も使用者(会社)も等しく責任を負うものとされます(不真正連帯債務 大審院判例)。ですので,通常,使用者責任も問題となる場面でも,会社も従業員も相手方として請求し,賠償額が大きくなる場合には,通常は,資力のある会社が保険を使うなどして賠償することになります。

 

 

使用者(会社)と被用者(従業員)の責任分担が問題とされるとき,これまでは,会社が賠償金を支払った後で,従業員に対して求償できるか,できるとしてその範囲如何ということで問題とされてきました。

求償自体は民法715条3項により認められているものですが,判例は会社との関係では従業員の責任をある程度限定的に解しており,「その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」としています(最高裁昭和51年7月8日判決)。

 

 

本来であれば従業員が支払うべき賠償であるから従業員が支払った以上は会社に求償できないというのが高裁の考え方のようですが(このような考え方を使用者責任の代位責任と呼んでいます),従来の判例の考え方に沿って考えると,そもそも会社と従業員の責任関係は不真正連帯債務の関係であってその優劣はないことや不真正債務者の一が支払った場合にはその負担部分を超えるものについては他に求償を求めることができるとされていること,使用者責任の求償については従業員に対する求償を制限的に解釈していることなどからすると,従業員が先行して賠償金を支払ったとしても会社に対し求償を求めることが可能で,その範囲については従業員の負担部分をある程度制限する方向で考えるのが自然であるということができそうです。