https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54033820U0A100C2CE0000/

 

 

 

賽銭(さいせん)にスマートフォンによるキャッシュレス決済を用いる神社や寺が増えつつある。「小銭要らずで便利」「信心が伝わりにくい」。参拝客からは歓迎と、戸惑いの声が上がる。京都の仏教団体は「個人の参拝状況を決済事業者が把握するのは問題だ」と反対を表明した。宗教行為に当たる賽銭に電子決済がふさわしいか、様々な議論を呼ぶ。

(1月4日日経新聞から一部引用)

 

キャッシュレス決済で賽銭を行うという宗教的な意味合いを含む行為の可否の問題(これについては個人がどう感じるかという問題ですが,多くの人は何となくは違和感を感じるとは思いますが,あくまでも心の持ちようの問題であり私個人としては時代の流れということで許容できるのではないかと思っています)と特定の寺社等にお参りしたという個人情報についてどのように考えるべきかという法律的な問題があります。

 

 

平成27年の個人情報保護法の改正により,特に不当な差別や偏見が生じかねないものとして「要配慮個人情報」という概念が新たに設けられています(個人情報保護法2条3項)。

 

 

個人情報の保護に関する法律第2条3項 この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

 

法律からの委任を受けて政令で定められているものとして以下のものがあります。

 

(要配慮個人情報)
第2条 第二条第三項の政令で定める記述等は、次に掲げる事項のいずれかを内容とする記述等(本人の病歴又は犯罪の経歴に該当するものを除く。)とする。
一 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること。
二 本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者(次号において「医師等」という。)により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査(同号において「健康診断等」という。)の結果
三 健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと。
四 本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと。
五 本人を少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第三条第一項に規定する少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと。

 

要配慮個人情報に該当するとされた場合には

①その取得には原則として本人の同意を要すること(法17条2項 要配慮個人情報以外の個人情報についてはその取得に当たって必ず本人の同意を得なければならないわけではなく,不正な手段での取得や利用目的を決めて公表・本人に通知するといったルールがあります)②オプトアウトによる第三者提供が禁止される(法23条2項 オプトアウト=一定の手続を踏むことにより本人の同意を得ずに個人情報を第三者に提供すること)

ことになります。

なお,この2点以外には要配慮個人情報とそれ以外の個人情報でルールに違いはありません。

 

 

記事にあるような宗教的な行為に関する情報については,法2条3項の 「信条」に該当するかが問題となります。

信条とは個人の基本的なものの見方、考え方を意味し、思想と信仰の双方を含むものであるとされていますが,個人情報保護委員会が定めたガイドライン上は,宗教に関する書籍の購買や貸出しなど,要配慮個人情報を推知させる情報にすぎないものは要配慮個人情報には含まないものとされています。

 

 

そうすると,特定の社寺等で賽銭を支払ったということ自体は当該宗教を信仰しているということ自体(要配慮個人情報)ではないため,個人情報保護法上は要配慮個人情報のルールに従う必要はなさそうです(但し,記事にあるような宗教法人に対する課税上の問題などを生じる可能性はあり)。

ただ,賽銭をしたからと言ってその宗教を信仰しているとは限らないので,一般的に多くの人がお参りするような社寺の賽銭ということであればあまり問題にはならないかもしれませんが,ガイドライン上は要配慮個人情報ではないとされている宗教に関する書籍の貸し出しといったものについて仮に情報が流出したような場合には不当な偏見を招きかねないという危険性もありますから,やはり,要配慮個人情報として規定されているものに関連する情報の取扱いには十分に慎重を期する必要性はあるであろうと思われます。