ペアレンタルロックをかけるなどして利用制限していたのに,いつの間にか子ども(未成年者)がこれを突破してしまって高額な利用料の請求がされるという事案はそれほど珍しくなかろうと思います。

 

 

ペアレンタルロックの解除などについても,契約者名義が未成年者である場合には,未成年者による法律行為として取消をすることができます(民法120条1項)。

 

 

法律行為の取消がなされた場合,法律行為は最初からなかったことになりますので,双方がそれぞれ受領した金銭等(通信会社が受け取ったパケット利用料,利用者が受けたパケットを利用したサービス)についてはそれぞれ相手方に対し返還しなければならないことになります。

 

 

ただ,パケット利用の場合,受け取ったサービスはすでに手元になくそのものは返還することができません。

 

 

未成年者による取消しがなされた場合,その返還は現存利益に限られるとされていますので(民法121条但書),給付を受けた既に手元にない以上現存利益はなく,返還する必要はなく,未成年者側は支払った通信料の返還のみを受けることができのかということが問題となります。

 

 

(取消しの効果)
民法第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

 

この点,よく言われているのは,未成年者が金銭を受け取った場合に生活費として使ったのであれば現存利益はあるので返還しなければならないが,浪費した場合には現存利益がないので返還しなくてもよいという理屈です。

なかなか理解が難しいのですが,これは,生活費は必ず使用するものであるので,受け取った金銭で生活費を支払った場合にはその分支払いを免れた分があるはずであり(預金や現金がその分だけ減少せずに残っている),現存利益として残っているが,浪費の場合にはそういうことがないので受領した金銭をそのまま右から左に流して使ってしまっているので現存利益がないという理屈です。素朴な法感情からすると納得しがたいものがありますが,未成年者(そのほか成年被後見人などの制限能力者とされている人たち)は,そもそも経済的な価値が理解できるだけの判断能力が無いのであるから,経済的価値を理解せずに使ってしまった分については,未成年者等の保護を優先して,ただ現存利益が残っている分だけは返還させようという政策判断ということになっています。

 

 

パケット通信料の返還というのも基本的にはのような考え方に則り,給付されたサービス自体は手元に残っていないとしても,その支払いをれたといういえる分について現存利益といえるのかどうかについて判断することになりますが,裁判例(札幌地裁平成20年8月28日判決)では現存利益があるとして返還が命じられたものがあります。

 

 

 

また,未成年者が購入しオンラインゲームのアイテムの購入に費消した電子マネーについて,未成年者取消しを主張して支払った電子マネー相当額の返還を他という事案で,このケースでは電子マネーを発行した会社とは別に,オンラインゲームの提供会社に対しても未成年者取消しを主張でき,その法的地位を有していることは現存利益に当たり,そうである以上(現存利益が残っていない)浪費とはいえないとして請求を棄却した事例があります(大阪地裁平成26年9月30日判決)。