判例時報2399号で紹介された事例です(名古屋高裁金沢支部平成30年6月20日決定)。

 

 

預貯金を差し押さえる際には,支店まで特定して申立てをしなければ差し押さえる対象が不特定であるとして申立てが却下されることになっており,支店を特定せずに,全支店を対象として支店番号が若い順に差押えの対象としていくような全店一括順位付け方式と呼ばれる方法については,判例(平成23年9月20日決定)により否定されています。

 

 

本件もそのような全店一括順位付け方式で預金債権の再抑えが申立されたものですが,判例があるにも関わらずそのような申し立てがなされた経緯として,事前に弁護士会照会によって「個人の預金口座に差押えがなされた場合,本支店に送達されると全店を対象として口座の確認を行っている」「氏名と住所により全店検索を行っているため口座の検索に時間,確実性に違いはない」と回答していたという事情がありました。

 

 

原審が申立てを却下したのに対し,抗告審である高裁では,前記の経緯に加えて,本件の対象金融機関が実店舗が十数店舗あるとはいえ,実店舗を訪れなくても電話やインターネットにより多くの取引や手続きができる態様であり,店舗の特定がそれほど重要な要素ではなく,対象がゆうちょ銀行と三大メガバンクの事案であった判例の事案と比較して差押え債権の識別のために金融機関に格別の負担をかけるわけではないとして,申立てを認めました。

 

 

実際のところ,ゆうちょ銀行でもメガバンクであっても,氏名,住所さえ特定できればシステムにより瞬時に預貯金の詳細が判明しているのが実態であり(相続の手続の為に店舗で手続きをするとねそれまで判明していなかった支店での預貯金がすぐに判明することがあります),近時,民事執行の実効性を強化しようという流れがある中で,このような方式の申立てについても広く認められていくべきであろうと考えられます。

 

 

 

【銀行のヴァーチャル支店に対する差押えについて差押え債権の特定が欠くとして判断された事例】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-11411847148.html