https://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20180830/Sirabee_20161772111.html

 

 

■妊娠8ヶ月の妻、胎児が死亡報道によれば、司法解剖の結果、妻の死因は顔を何度も激しく殴られたことによる外傷性ョック。
夫は「妻を殴った」と警察に自首しているが、それまでにおよそ1時間にわたって数十回も殴っていたとみられており、妻は脳内も出血していたという。妻は妊娠8ヶ月目を迎えており、胎児も死亡していたようだ。
『NNN』によれば、男と妻は今年に結婚したばかりで、事件当日は手続きのために区役所を訪れていたとみられている。
また、男は警察の調べに対して、「カッとなってしまった」などと話しているという。
■「無念でならない」「酷い死に方」妊娠している妻に対して、数十回にわたる殴打した男。ツイッターや『Yahoo!ニュース』では「極刑を強く望みます」「許せない」と怒りの声が数多くあがっている。
(8月30日exciteニュースから一部引用)

 

仮に殺人事件であれば,(いろいろな批判はあるものの)被害者の人数というものが重視され,死刑とそれ以外の刑を分ける重要なメルクマールの一つともなり,今回,仮にすでに生まれていた子供と母親を故意に殺したという殺人罪であれば,被害者数のメルクマールだけでいえば死刑も考えられるということになります。

しかし,刑法上,胎児は「人」ではないとされ,母体外に体の一部が露出した時点をもって人として評価されるものと解されています(一部露出説)。

 

 

今回の犯人の行為が報道とおりであるならば,少なくとも妻に対する傷害致死罪が成立することは明らかですが,胎児も亡くなっているということであり,これについて別途犯罪が成立するかどうかということが問題となります。

 

 

胎児は母胎内にいる限り「人」としては評価されないのですが,胎児の生命を保護するものとして堕胎罪が設けられています。

堕胎罪にも色々な類型がありますが,今回の場合,母親の嘱託を受けずに堕胎させたとして不同意堕胎という罪が考えられます。

 

 

(不同意堕胎)
刑法第215条 女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

 

 

 

「堕胎」というのは胎児を母胎内で死亡させること,又は自然の分娩に先立って胎児を母体外に排出する行為をいうとされます。

今回の場合,胎児は母胎内で死亡していますが,堕胎罪はあくまでも故意犯ですので,母親の顔を激しく殴ったとはいえ胎児に対して何らかの直接的な侵害意図をもっていたまでは明確には認定できないように思われ,犯人に堕胎の故意まで認めることは難しそうです。

 

 

胎児に対する侵害行為において問題となるのは,その後生まれてきた胎児に何らかの障害があったり死亡したりした場合に,傷害罪,過失傷害罪,傷害致死罪が成立しないかといった場面です。

この点については,胎児はあくまでも母体の一部であり,侵害行為により胎児に対して病変を加えた場合は母親(人)に対する傷害罪が成立し,その後,胎児が生まれてきて死亡した場合には,その「人」について発生した障害や死亡結果は,あくまでも「人」についての障害や死亡という点で異ならないので,傷害罪(生まれてきた人に発生した障害自体が傷害として評価される)や傷害致死罪が成立するということとされています(判例)。

我々の日常生活においてあり得ることとしては,例えば,交通事故で,たまたま被害者が妊婦であり,その後生まれてきた子供が事故を原因とする障害により死亡した場合には,自動車運転過失致死罪に問われ得るということになります。

 

 

本件の場合,残念なことに,母体とともに胎児も亡くなってしまったようです。

この場合,どの立場によっても,胎児は母胎の一部として評価され,犯罪としては亡くなられた母親の生命に対する侵害についてのみ傷害致死罪が成立し,胎児については量刑の一事情として考慮されるということになります。