判例時報2370号で紹介された事例です(東京高裁平成29年7月6日判決)。

 

 

本件は,

・父親の相続の際に,母親がその遺産(約9057万円相当)の自らの相続分である2分の1を子であるYに譲渡し(相続分の譲渡),父親の遺産分割が行われた。

・その後,母親が死亡したが,母親にはその名義で遺産はなかった

・Y以外の子であるXらが,父親の相続の際に母親が行った相続分の譲渡が,特別受益(民法903条)に当たり,その分は遺留分算定の基礎となる相続財産に該当するから(民法1044条),Yに対して遺留分減殺請求を行い,相当する不動産の持分登記の請求をした

という事案です。

 

 

少し分かりにくいですが,仮に,母親が先に亡くなった父親の遺産を法定相続分とおりに相続し,その後に,相続分に相当する約4230万円をYに贈与しており,それが生計の資本としての贈与として特別受益に当たるとすれば,他の相続人であるXらは遺留分減殺請求を行なうができるわけで,本件で特徴的なのは,具体的な財産の贈与という形で行われたのではなく,抽象的な法律上の地位である相続分の譲渡という形で行われた,というところにあります。

 

 

相続分の譲渡とは,遺産全体に対する共同相続人が有する包括的持分又は法律上の地位を譲渡すること,と説明されますが,個々の遺産のに対する確定的な権利を生じるのはその後遺産分割を経てからということになっているので,請求を受けたYとしては,本件でいえば,母親から不動産という特定の財産についての贈与を受けたわけではないという反論をしましたが,裁判所の判断としては,実質的にみれば,相続分の譲渡によってYが財産的価値の増加があるのであるから,相続分の譲渡についても特別受益としての政経の資本の贈与に該当し得るとし,本件では多額の父親の遺産(約9057万円相当)の2分の1という相続分を譲渡しているのであるから生計の資本としての贈与,すなわち特別受益に該当すると判断されています。

 

 

(相続分の譲渡)

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12346731796.html