AがBに対して500万円の債権を有しており,BがCに対して800万円の債権を有しているという場合に,Aが自らの債権を保全するために,BのCに対する債権の請求を行うというのが債権者代位権と呼ばれているもので現行民法にも規定があります(民法423条)。

 

 

現行民法では債権者代位権の規定は423条の僅か1条に過ぎず,多くは判例法理により解釈が積み重ねられてきましたが,今回の改正により判例法理を踏まえた規定などが新設されています。

 

(債権者代位権)
現行民法第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

 

例えば,被代位権利(上記の例でいえばAのBに対する債権)が強制執行により実現できないものであるときは,債権者代位権は否定されましたが(改正民法423条3項),これは,Bが破産して免責決定を受けているような場合には,AはBに対して債権者代位権を行使してCに対して請求することができないという判例の立場(但し債権者取消権に関するもの)を確認したものになります。

 

改正民法423条3項 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

 

また,判例上,債権者代位権を行使できる範囲は,債権者が有する債権の額に限られるとされており,Aは,BのCに対する債権のうち自己の債権額である500万円までしか請求できないとされていましたが,改正法ではこの点について確認がされています(民法423条の3「自己の債権の額の限度においてのみ」)。

 
 
(代位行使の範囲)
改正民法第423条の2 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。

 

債権者代位権というのはあくまでも債権の「保全」のための制度であって,債権者代位権を行使したからといって他の債権者に先駆けて優先的に回収ができてしまうのはおかしいという議論が古い時代からありましたが,大審院時代の判例以来,判例は事実上債権者代位権を行使した債権者が優先的に回収することを是認してきました(前記の例でいえばAはCから回収した500万円をBに対する債権と相殺することで自らの債権の回収を図ることができる)。

民法改正の議論に際してこのような優先回収を認めるかどうかという点につき議論が変遷したようですが,最終的には,代位先からの直接の支払,引渡しを受けることを認めて,相殺禁止等の規定も盛り込まれなかったため,従来の判例における解釈通り,債権者代位による優先的な回収が認められるということになります。

 

 

(債権者への支払又は引渡し)
改正民法第423条の3 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。