判例時報2342号などで紹介された事例です(名古屋高裁金沢支部平成28年11月28日決定)。

 

 

被相続人に相続人がおらず,遺言もない場合,相続財産は国庫に帰属することになりますが(民法959条),「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(特別縁故者)から請求があった場合には,家庭裁判所の判断により,相続財産の全部または一部を与えることができるものとされています(民法958条の3)。

 

 

本件は,中度の知的障害があり,身体障害も著しかった被相続人に付いて,昭和55年から亡くなる平成27年までの間,被相続人が入所していた障害者支援施設を運営する社会福祉法人を特別縁故者と認めて,その相続財産の全部の分与を認めたという事例です(相続財産としては普通預金として約2256万円であつたので,この中から相続財産管理人の報酬等を差し引いた残額が分与されるということになります)。

 

 

原審の家裁では社会福祉法人を特別縁故者として認めませんでしたが,その主な理由としては,社会福祉法人が被相続人を療養看護していたのは,両者間の契約に従ってなされていた義務の履行に過ぎず,その費用も利用者の負担と国と自治体の補助金から賄われていたのであるから,施設と利用者という関係を超えた特別な関係まではなかったというものでした。

 

 

いささか冷たい感じがする理屈です。

 

 

 

高裁においては,判断が覆り,施設のおかげで,日常の介護に加えてカラオケや祭りなどの娯楽に被相続人が参加できるようにしたり,身体状況が悪化した以降は昼夜を問わず対応したり,また,高額の移動リフトや特別浴槽を設置するなどして,長年に亘り被相続人が人間としての尊厳を保ち,なるべく快適な生活を送ることができるように献身的な介護を続けていたものと認められるとし,このような療養看護は社会福祉法人としての通常のサービスを超えて,近親者の行う世話に匹敵するかそれ以上のものであったと言えるとしました。

利用料については,補助金があることを考慮したとしても,介護の内容に見合うものではなく,そのような低廉な利用料のおかげで相続財産が形成されたと言えるものとしました。