人の生死不明の状態が続いたときに,裁判所が失踪宣告を行い,法的に死亡したという状態として認定してくれる制度が失踪宣告ですが,失踪宣告には,普通失踪と特別失踪の2種類があります。




普通失踪は行方不明から7年間,特別失踪は戦争や「死亡の原因となるべき危難」が去ってから1年間行方不明の状態が続いた場合に失踪宣告がされるという,違いがあります。特別失踪の方が期間が短いのは,死亡している可能性が高いだろうということです。



この点の区別が問題となったのが,家裁月報65巻1号で紹介された事例です。



ある家庭の妻Aが,自動車で子どもを送った帰りに,行方が分からなくなり,自動車は海沿いの道路横の法面で横転しているところが発見されました。




自動車の運転席側の損傷はひどくはなく,運転席の下には訳1メートルの空間があり,そのドアが開放され,Aの右の靴が発見現場付近に落ちていました。




発見場所は水際から約30メートルのところにありましたが,法面の途中には高さ10メートルはある崖があり,その崖下は傾斜のある岩棚となっていて,付近の潮流は早く,海中に転落した場合には沖合に流される可能性が高いという場所でした。なお,水際近くからAの左側の靴が発見されています。




警察などの捜索は,Aの行方不明から12時間以上経過してからなされましたが,発見には至りませんでした。




なお,Aは,うつ病の治療中であったが,治療薬は減量されていたということです。また,行方不明の約3年半前に死亡災害特約付きの医療共済契約を締結していたが,特に借金はなかったということです。




Aの夫は,Aの行方不明から1年間経過した後に,特別失踪として失踪宣告を求めましたが,家裁は,Aが足を滑らせて海中に転落したというのは夫の推測にすぎず,特別失踪には当たらないとして,7年間の普通失踪の期間が満たされていないとして,夫の申立を却下しました。保険のことも踏まえて疑い出せばこういう判断もあるのでしょう。



夫からの即時抗告を受けた高裁は,現場の状況などを素直に見て、本件はAが「死亡の原因となるべき危難」に遭遇したものと認めてよいとして,特別失踪を認めました。




現場の状況から見て,Aが海中に没したとみて差支えないだろうという判断をしています。






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