家裁月報64巻6号で紹介された東京高裁の決定です(平成23年9月8日)。

家裁が民法1019条1項の遺言執行者の解任について正当事由なしと判断したいのに対し,高裁はそのような判断には誤りがあると指摘したという事例です。




事案は,本件遺言においては,遺言執行者としてA弁護士が指定され,遺産である甲工業の株式(発行済み株式総数の約59.5パーセント)を含む遺言者のすべての遺産の分割方法をA弁護士が定めることを委託されていました。




甲工業には,相続人の一人であるBのほかに数名の役員がいましたが,遺言執行者であるA弁護士は,Bを除くすべての役員らを辞任させて,Bの単独代表取締役にさせたという認定がされています。




そして,A弁護士は,自分の子であるCを同行して年600万円の給与で甲工業で雇用させることを求め,一旦雇用させたということです。




Cは大学卒業後他に就職せず,父であるA弁護士の法律事務所の事務の補佐をしていたのみであったという認定がされています。




高裁は,このようなA弁護士の行為は,甲工業の全株式の約59.5パーセントを含む株式の遺産分割方法の指定を委託されているという地位を利用したものであり,また,大半の株式をいわば握られているBとしてはこの申し出を拒むことができない立場にあった,また,Bに不利益を生じさせて自己の利益を図る行為であるなどとして,特段の事情のない限り,遺言執行者を解任するための正当な理由があるというべきだと判断しました。





なお,A弁護士は,中小企業円滑化法の適用を受けるために必要な行為であったなどと抗弁したようですが,高裁は認めませんでした。




この点,家裁は,納税猶予制度の適用のために従業員の雇用が必要であったことから,A弁護士が自らの子を雇用するように紹介した行為が相当であったかどうかはさておき,甲工業にとって全く必要がないのに雇用させたとかいうことではなかったことなどから遺言執行者の権限を逸脱したとまでは認められないという判断をしているようです。






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