判例時報2150号で紹介された東京地裁平成23年11月17の裁判例です。




ある有名大学(早稲田のライバルのようです)のラグビーチームが,夏合宿のために中部地方の旅館に6日間の宿泊の予約を入れたところ,部員の一部にインフルエンザが発生したため,宿泊予定日前日になってキャンセルをしました。




旅館としては,予定していた大口の団体客から前日になってキャンセルされたということで,宿泊予定であった合計209人分の宿泊料金合計138万2535円の7割に相当する96万7774円のキャンセル料を請求し,チームはこれを支払いました。




しかし,支払い後,キャンセル料金についての合意がないとか消費者契約法に違反しているなどの理由で,支払ったキャンセル料金の返還を求めて提訴したというものです。




裁判所の判断は次の通りですが,支払った内の7万3152円の返還のみを認めました。




まず,キャンセル料の支払いについて合意がなかったという点について,旅行引受書には前日の取消の場合には100パーセントのキャンセル料であるという記載があったことや,旅館のホームページにもそのような表示がされていたことなどから,ラグビーチームがそのようなことは知らなかったという主張は成り立たないとされました。





また,取消料が発生する条件である「お客様の都合」という条件については,必ずしも顧客に帰責性のある事由ということではなく,インフルエンザといった顧客「側」で生じた事由のことを指すとして,この点に引っ掛けてキャンセル料金の返還を求めたチーム側の主張も退けています。





裁判所が認めたのは,消費者契約法9条1号で定める,消費者に対して損害賠償や違約金を課す場合には平均的な損害以上の額についての支払いを求める条項は無効とするというものでした。




そもそも,消費者契約法にいう「消費者」というのは「個人」を指しますが,本件のようなラグビーチームがこれに該当するかという点について,裁判所は,主要な構成員が大学生である点などを指摘して,「消費者」といってよいとしました。




そして,本件でいう平均的な損害については,予定されていた宿泊料金から旅行の手配業者に支払う分や支払いを免れた食材費などを控除した残額である79万7845円が旅館が被った損害であるとし,さらに,平均的損害について他に基準となるべきものが見当たらない以上,その金額を平均的損害として認定してよいとしました。





平均的損害をどのように認定するかという点についてはこの点に限らずいろいろと問題になることがあります。本件では,当該旅館が被ったであろう損害を個別に認定してそれが平均的損害であるという論理構成をとっています。その地域の旅館の約款で前日のキャンセル料について80パーセントとすることが多いなどの事情があればそちらが平均的損害であるという認定も出来そうですが,本件では当該地域のキャンセル料の率はまちまちであったということです。





本件は確定しています。



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