遺言は,遺言者が自分の財産を自らの死後にどのように処分するかということを決める行為です。
よく,「遺留分に反しない限り」自由に決めてよいといいうことはよく言われていますが,たまに,遺留分の範囲内であっても,そのような遺言が公序良俗(民法90条)に違反するとして無効の主張がされることもあります。
一番問題となるのは,不貞行為の相手方,つまり愛人に遺産を遺贈してしまうというケースです。
裁判でも問題となることがあり,具体的事情によって,有効と判断されることもあれば無効と判断されたこともありますが,ポイントとしては,次のような諸点が考慮されることが多いです。
①配偶者との婚姻の実態が失われた後にされた遺言かどうか→婚姻関係が破た んした後にされた遺言であれば,配偶者の保護がある程度減殺される
②不貞行為とはいえ,期間が一定程度継続しており内縁と評価できる程度までに至っているか→遺言者の「不貞行為の相手方に対して配慮したい」との意思についても考慮する必要が出てくる
③遺贈の目的がせ不貞行為の継続を目的としているか→愛人の歓心を買うためにしたということであれば,問題
④遺贈の内容が相続人の生活を脅かす内容かどうか→相続人の生活が脅かされるということであれば,不貞行為の相手方の保護を優先させるわけにはゆかない
裁判例では,相手方が夫と内縁関係にあることを知っており,すでに夫婦関係もある程度失われていたというケースで,遺言の目的も経済的に夫に依存していた相手方への配慮であって,遺言の内容も相続人の法定相続分は確保されていたことから,遺言を有効とした最高裁の判例があります。
一方,内縁関係にあった相手方女性と夫との不貞行為により婚姻関係が破たんした事案で,夫が,妻が生活のための賃料収入を得ていた不動産を含むほぼすべての遺産を相手方女性に遺贈した遺言は公序良俗に反するとして全体を無効と判断した東京地裁の裁判例などもあります。
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