例えばそう、あの女は名の如くではないのだが、まるで麒麟のような女だ。
普段あまり言葉を発しないせいか、周りを圧倒させるような空気感は、麒麟に似ていた。
静かでも、あの存在感。
かといって麒麟のように背が高いわけでも、無論首が長いわけでもないのだが。
だけどやっぱりあの女は、麒麟に似ているんだ。
佐々木凛子
(これは本当に)名の如く凛とした奴で。
トイレにひとりで行けない女子高生とは、一味も二味も違った。
まず、こちらから話しかけない限り話さない。
次に、空気を読んで発言しようだなんて微塵も思っちゃいない。
それに、それで他人から煙たがられようとも厭わない。
兎に角、異質な存在である。
「佐々木凛子ー、そこにいるのはわかってるんだー、諦めて出てきなさーい」
抑揚をつけずに、テレビドラマの刑事のような台詞をタンクに投げる。
ひとりを好む麒麟の避難場所といえば専ら屋上なのである。それに高い所を好むらしく基本的にタンク裏、もしくはタンクの上によじ登っている。
「さーさーきーりーんーこー」
クラス替えで2年間クラスを共にしている麒麟。
はじめてクラスが一緒だった時、男女の出席番号が同じで週番が一緒だった。
この偶然がなければ、俺は今頃こいつと口をきいたこともないような状態なんだろうなぁ、なんて思う。
話してみれば、何んとも興味深かった。
最初は、義務、だった。話しかけなくては気まずい、とりあえず何か話題を振ろう、そう思った1年前の俺は必死に話題を探してあの無愛想な麒麟に提供したわけ。
そしたらこいつ、案外面白い。
それがわかってからは、何かと会話をするようになった。
一時は佐々木凛子とまともに会話ができるなんておかしいと言われたほど。
(至って失礼な話だまったく)
「さぁーっ!さぁーっ!きぃーっ!りぃーっ!」
「あーもぉ、わかったよ、うるさいなぁ」
観念したらしい麒麟がタンク裏から姿を現した。
そのまま梯子を使わずにすたん、と飛び降りて俺に対峙。着地音から、こいつ軽いんだな、なんて暢気な事を思ったりした。
なんか用?って顔で俺に睨みを利かす麒麟。さっきまで泣いてたであろう腫れぼったい眼では威力も半減だ。
「そのガラス玉、何?」
麒麟は回りくどい言い方を嫌うため、知りたかったことをストレートに聞いた。
ガラス玉。だ。
無駄、を嫌う麒麟が、自分の筆箱に無駄なものを入れるはずがない。
だから、あのガラス玉は、無駄じゃないという事。
俺はその、無駄じゃない理由を知りたかった。
「・・・・・・そうだな、母さんかな」
「母さん?」
「そ、母さんの魂」
私が貰っちゃったから、母さん、死んだの。
「・・・・・・なんで、柴田が泣くの」
無駄じゃない理由は、懺悔だった。
現役異色女子高生
(午後2時13分、俺は命の意味を知る)
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他人の痛みを泣ける人って、凄いと思う