お前は悪くないのにね。
私にガラス玉を渡した日、姉はこう言って泣き崩れた。
年端もいかない私は、ただただ目を白黒とさせるばかりで、姉の言葉の真意など全く気付いちゃいなかった。
「母さんが、凛子にって、お姉ちゃんに預けたの」
「ママが?」
「そう、お姉ちゃんと凛子にあげるって」
「これなあに?」
「ガラス玉。綺麗でしょ?」
姉の掌の上で転がる小さな球体は、光を取り込んでは吐き出して、幾重にも色を重ねたように光っていた。
それが今までに見たことがないくらい綺麗で、ひどく興奮したことを覚えてる。
「お姉ちゃんと、お揃いだよ」
「・・・おそろい」
おそろい、という言葉がこそばゆくて、でもうれしくてしあわせで。
ひとりほくほくとした心持でガラス玉を受取ろうとした。
刹那、
姉の手から私の手に滑り落ちるはずだったガラス玉は、私の掌に支えられることなく床へと落下した。
ことん、小さく、しかし重たい音に聞こえた。
それを見た姉はまるで思い出したように目から滴がぽろぽろ、ぽろぽろと止め処無く零れ落ちる。
「お姉ちゃん?」
「あれ、おかしいね、お姉ちゃん、なんで泣いているんだろうね」
口元は緩く弧を描くものの、瞳からはやっぱり大粒の涙が止まらなくて、姉はうわ言のように呟き始めた。
あたしとお母さんのお揃いだったのにな。
そしたら、死んじゃうんだもん、
まるで、ガラス玉みたいね、お母さんって。
今思えば、私は生まれてこなければよかったと、すぐに理解できるのに。
幼い私はどうにか姉を涙から掬いあげたくて必死だった。元凶は自分とも知らずに。
「お姉ちゃん!」
落ちたガラス玉を掌に乗せて姉に差し出す。
ひとりじゃないと伝えたかった、決してあなたはひとりじゃないと。
おそろい、を持った自分がここにいると。
(憎まれているとも知らずに)
すると姉は私を強く抱きしめて、またごめんねを何度も繰り返し泣いた。
その腕はやさしかった。
「あたしなんか、要らなかったね・・・・・・」
墜落ヒューマニズム
(午後1時42分、屋上タンク裏にて)
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無知とは、恐ろしい