はじめはどうだって良かった、
数ある二つ名(特定のモノを持っていないんだから二つ名にはならないか)の
ひとつふたつ、
盗まれたってそんなもの、どうだって良かった。
すべては蔑みや疎ましい思いから他人が勝手につけたものばかりで、
呉れてやる、そんな程度だった。
ましてや、どろろ、など。
「おい、百鬼丸」
後ろから付いてくる自称天下の大泥棒さんは先ほどから俺の「名前」を呼び続ける。
「無視かこら、しかとか、あぁん?」
男だと言い張る女泥棒は、なんだか懐いて付いて来るようになった。
根っからの天涯孤独の風来坊の、化け物に、このやたら口調が荒い女は懐く。
至って可笑しな奴だ。
俺の腕を見たって、怯まず、それどころかその眸を輝かせて、
いつか盗んでやるからな!
なんて啖呵まで切ったんだから、わけがわからねぇ。
だけど、
厭じゃなかった。
この女が俺の名を呼ぶこと、厭なんかじゃ、なかった。
「ひゃぁぁぁぁぁっきぃぃぃぃぃぃまぁぁぁぁるぅぅぅぅあああぁぁ」
「・・・なんだ」
いい加減鬱陶しくなってきたので対応してやることにする。
すると、天下の大泥棒は、痛い所をついてきた、女の勘、というやつか、
はたまた本当に只気に入らなかっただけなのか。
「てめぇ、何で俺を名前でよばねぇ」
そう、俺は、この女泥棒を一度も名前で呼んだことが無い。
畜生、気付かれていたか。案外、侮れねぇ。
呼びたくないんだ、どうしても。
呼んで仕舞ったら、認めたことになる、それはいけない。
その名は、俺が背負わなきゃならねぇモンで、決して、こいつが背負うもんじゃねぇ。
いつからかなんて、そんなこったぁ覚えちゃいねぇが、
この女泥棒がどうでもいい存在、でなくなったんだ。
「名前を持つような泥棒は二流三流だと、自分で言っていたじゃないか」
「はん、んなこと気にしてんのかよ、ちっせぇ野郎だな」
「お前は天下の大泥棒なんだろ?」
「違いねぇ、だが、どろろの名は、すでにおめぇから盗んだんだよ」
だから俺のモンだ。
「おめぇから盗んだ名前だ、お前が俺をその名で呼ばねぇと、俺の所有物だと正式に証明できねぇだろが」
「・・・違いねぇ」
どろろの名は、化け物小僧を意味する。
その矮躯がその者の存在理由を顕すならば、
その名前はその者の存在意義を提示する。
なのに、なのにだ、
そんな名前、お前に背負って欲しくなんてない。
「名前、ってのはよ、てめぇの存在意義を提示すんだ、おめぇは、化け物小僧なんかじゃ、ねぇだろ?」
「あに、き・・・」
「はぐれもんの、一匹狼、天下の大泥棒、どろろなんて名前、似合いやしねぇ」
早く捨てちまえ、そんな名前。そう吐き捨てて俺は脚を進める。
名前とは責任。名前とは矜持。
泥棒に責任なんて、につかねぇ話だ。
「何かっこつけてやがんだこのほげたらぁ!!」
「ほげ・・・っ!?」
「名前が意義なら何だってんだ!てめぇには百鬼丸っつー意義があるじゃねぇか!!」
如何にも不機嫌そうな声音で、どかどかと乱暴に足を前に進める。
双眼はまだ取り返しちゃいねぇから、表情はわからねぇが、多分眉間に皺が寄ってるんだろうな。なんて呑気なことを考えていた。
女はさっきの大声で呆気にとられて立ち止まった俺の胸倉を掴む。
「一つありゃ十分だろうが!欲張るんじゃねぇよこの阿呆!」
「おま!化け物小僧なんて・・・」
「はん!これからどろろって名は天下の大泥棒様を意味すんだよ!!!」
「・・・はぁ?」
「ついでに百鬼丸はさいっこーの刀の代名詞だな」
得意げにそんなことを言い出す嬉しそうな声音に拍子抜け。
俺の目前に力強い拳を突き出して、言う。
「天下の大泥棒と最高の刀遣い、天下無敵だと思わねぇか?」
あン?どうなんだよ。そう聞き返してくる、上向いた声。酷くご機嫌な様子だ。
大した野郎だ、名前の持つ意義を自ら作り出しやがった。
甘受する他ない定めとして受け取らず、変化を与えやがった。
俺は紛い物の掌で拳を作って自分のより一回り小さな拳に
ごつり、ぶつけた。
「ああ、そうだな、どろろ」
俺は初めて女の名を呼ぶ。
どろろは上機嫌に鼻歌なんぞを歌い出す。
それはそれは懐かしい、子守唄。
俺は闇の中でまた瞼を下ろす。もうすでに陽は昇りだしただろう。
朝焼け、君の唄
(それこそが初めて護り通したいと願ったもの)
どろろの映画を見てw
百鬼丸とどろろはいつか夫婦になる!とか思ってる痛い奴がここにいます。
相変わらず文才が小指の爪の甘皮ほどもねぇなwww
百どろ万歳★