「人月ビジネスの脱却」。多くの受託ソフト開発会社が新しいビジネスモデルの創出に必死だ。知識集約型など労働集約型に代わるビジネスに転換できなければ、じり貧になる可能性もある。
そんな中で、インターネット取引やディーリングなど金融系フロントシステムに特化するシンプレクス・ホールディングスは、成功報酬型に成長の活路を見出そうとしている。ユーザー企業がサービスを使って獲得した収益の一部をインセンティブとして課金するものだ。自らのリスクで開発したサービスを提供し、高収益企業を目指す。
●営業利益率20%弱を確保
受託ソフト開発会社の営業利益率は平均5%程度である。対して、シンプレクスは20%近い数字を維持し続けている。金融系フロントシステムに徹し、上流コンサルティングから受ける体制をしいているからだ。加えて、「システム化にあたって、当社がアイデアを出し、当社がソースコードの著作権を持つ」(金子英樹社長)ことで、開発したシステムの横展開によって部品ライブラリ化を充実し、「新しいものを作ることを少なくすればするほど、利益率を高める」(同)事業構造にした。
だが、何人月の労働集約型ビジネスから完全に抜け出せるわけではない。そこで、自らが企画、開発したサービスを提供するUMS(ユニバーサル・マーケット・サービス)事業を開始した。その第一弾は、2003年に始めた個人投資家向けインターネット取引サービス「SPRINT」である。SaaS提供のSPRINTはネット証券会社などで使われており、基本料に利用者数やトランザクション量などによる従量課金を組み合わせた料金体系になっている。
SPRINTの機能拡充などで、2011年度(2012年3月期)の売上高見込み約160億円のうち、UMS事業(サービスと導入)は69億円を占める。保守を含めたシステム構築のSI事業(約70億円)とほぼ同額に成長した。UMS事業を伸ばし、安定した収益基盤にするためにSPRINTを大幅に機能強化した個人投資家向けFX(外国為替証拠金取引)システム「Voyager Trading cloud」を投入した。
2009年に大阪証券取引所向けに開発した個人投資家向けFXシステムをベースにするVoyagerは基本料と従量課金に、成功報酬を加えた3階建ての料金体系とした。例えば、FX事業者が、取引1枚当たりの収益が100円あったところに、Voyagerを活用して20円プラスになったら、20円に何割かを課金する。月間取引数量が500万枚あったら、増加した収益1億円の一定割合がシンプレクスに入る仕組みだ。
問題はどのように顧客を獲得するかだ。2011年6月にVoyager を発表した折り、三田証券が採用することを明らかにしたが、「Voyagerで、収益を伸ばせる」(金子社長)ことを証明し、市場が低迷する中でも導入ユーザーを増やす作戦である。データベース処理の高速化を図るオンメモリや高速メッセージングを自社開発したり、独自の障害対策機能を盛り込んだりしたのも、そのためだ。こうした機能の開発にあたる金融工学やシステム設計などに優れた人材を確保しているのが、シンプレクスの強みでもある。
●収益を上げるサービスを提供
シンプレクスはコンサルティング会社、投資会社などでシステム開発を担当した金子社長らが1997年に設立した。「金融機関が収益を上げられるように、ITで側面から支える」(金子社長)との考えから、システム化の上流工程から開発、運用・保守を請け負う。多くの受託ソフト開発会社と同じようにみえるが、シンプレクスは1人が全工程を担当する。上流はコンサルティング会社、開発は受託ソフト開発会社、運用はアウトソーシング会社という役割・機能分担ではなく、一連の作業すべてを社内で行う。
「あるべき姿を描いた人が開発、運用も手掛ける」(金子社長)ことで、ユーザーの目標達成に向けた課題が運用・保守の段階で発見できる。その課題は次のフェーズであるコンサルティングで必ず解決する。「こうしたら儲かる、ということを支えるシステムにする」(金子社長)うえで、この体制は顧客満足度も上げられるという。人材確保にも力を入れており、「全員プレーヤーを目指し、頭が切れて、頭の柔らかい人」(金子社長)を採用する。視野が広くて、ビジネスにもITにも精通した人材をそろえるためだ。
シンプレクスは設立5年目の2002年にジャスダック、2004年に東証第二部、2005年に東証第一部へとスピード上場する。この間、年率約30%の高成長を遂げた。だが、2010年度(2011年3月期)は売上高165億円、営業利益38億円を計画したものの、149億円、25億円強に終わった。初の減益である。
2011年度も期初予測の売上高175億円、営業利益31憶円を下方修正し、売上高160億円、営業利益20億円とした。大型SI案件が見込みほど受注できなかったことなどによる。証券会社向け株式ディーリングシステムなどが一巡したこともあるが、2012年度は売上高170億から180億円、営業利益35億から40億円を目指す。シンプレクスが高成長を再び確保するには、大型SIの獲得とUMS事業の拡大にかかっている。
一期一会
金子社長はアーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)、キャッシジャパン、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ)でシステムなどを担当した。金融系フロントシステムに注力したのは、こうした経験があるからだ。構築したシステムの価値を理解し、それに対する正当な料金を支払ってくれるからでもある。しかし、金融に固執しているわけではない。正当な評価をしてくれる業種があれば、対応する考えはある。
金子社長は人月ビジネスを嫌っている。ハードベンダーが製品を売るために編み出したこのビジネスは、システム構築を失敗しなければ赤字にならないし、一定の利益率を確保できる。だが、利益率を高めるのは至難の業だ。シンプレクスも20%近くなったものの、それ以上を目指すには自らリスクをとらなければならない。自前できちんと投資して、開発した商品をサービス提供する。そして、顧客が儲かった分に見合うインセンティブを得る。
この成功報酬型に到達したのは、ソロモン時代にトレーダーが株式や債券などの売買取引で利益を得るためにITシステムも駆使していたことが大きい。良いITを手に入れたトレーダーほど利益を上げられる。その優れたITを開発した人も利益増に貢献したのだから、それに見合う対価を得られるはず。そう考えると、成功報酬型ビジネスはITサービス会社が進む一つの道である。【田中克己,IT産業ウオッチャー】
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