着信5 | PLUTO KISS

着信5

宝条が気がつくと、ジャンクが無造作に置かれている部屋だった。
恐らく、武器開発部の滅多に開かない倉庫だ。置かれているジャンクの上に余程掃除をしていないのか、雪のように積もった埃がどれほど使われていないのかを物語っている。
上体を起すと、頭からぽたり、ぽたり、と雫が落ちる。
それがすぐに自分の血液がと気がつくのに時間は掛からなかった。
「・・・くそっ・・・頭割れてる・・・。」
頭を抑えようと無意識に動かした腕が上へと上がらない。ふと、手首に感じる違和感にはっとして後ろに回っている手首を覗くと、太い針金でぐるぐると拘束されていた。同様に足もだ。
それに気付いた宝条は「無駄なことを・・・。」と呟くと、靴の踵に仕込んでいたナイフで足首の拘束を解くと、そのまま手首も解いた。
四肢が自由になると、入口に向って開かないかと確認を取ってみるが、やはり開かないものは開かない。
「・・・壊すしかないかな。」
――おい、相棒。――
「何?」
――お前まだ残量が残っているなら、アレを飲み込んで、ロングソードに変えろよ。――
内なるもう1人の宝条が語りかけ、指さす先へと視線を送ると、鋼をバラバラに解体したものが工具箱の中から溢れるように入っていた。
なるほど。と、納得した宝条は鋼を口の中へと次々と放りこみ、口からロングソードを取り出した。
「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
――副作用はないようだが、体力が危ないな。――
「任せといて。でも・・・危なくなったら、変わってね。」
――ああ。わかってる。――
宝条はロングソードを構えると、扉を切り刻んだ。
扉はペンで落書きでもされたかのように線が入ると、それに沿って綺麗に切り離され、崩れ落ちた。
丁度廊下を通っていた社員たちは、突然の事態に目が点になって宝条が部屋から出てくるのをみていた。
「・・・ねぇ、社長は何処?」
「あ・・・えと、今からヘリポートへ出て、海を越えた先にある兄弟会社先と直接会合を・・・。」
「ありがと。」
宝条は近場の窓から身を乗り出し、振り子のように身体を窓の外へと投げ出した。
宝条の行動に、辺りにいた社員たちが慌てて窓へと駆け寄り下を見下ろしたが、そこに宝条の姿はなかった。
代わりに、頭上から聞こえる早い足音。
まさかと思い社員の1人が上を見上げると、そこには壁を当たり前とでもいわん顔で駆け上る宝条の姿があった。
宝条は壁を駆け上がり、手摺りを飛び越えると、ヘリポートへと降り立った。
そこにいたのは社長と、四方と時折共にいる姿をみたことのあるSPが2人。
「社長・・・何故こんな真似を?」
「・・・君に答えてどうなる?」
「・・・四方さんは・・・何処だ?」
「答えるつもりはない。」
言葉と同時に懐から拳銃を取り出し、銃弾を発砲する社長。
続いてSPたちも銃弾を放ってくる。
飛んでくる銃弾を切り捨て、2人のSPを切り捨てる。
そのまま社長の懐まで飛び込んでいくが、社長は拳銃を一瞬で解体し、中から仕込みナイフを宝条に向って投げ飛ばした。
避けたつもりだったが、ナイフは宝条の首筋を貫いたようで、血が溢れ出す。
「かなりの身体能力を見込んで入社させたが、最近は動きが悪くなってないか?」
クスクスと笑いながら、社長は宝条を蹴り飛ばす。
「うぐっ・・・!!」
蹴り飛ばされた宝条は床に転がった。そんな宝条を踏みながら、社長は冷たい言葉を零す。
「宝条君。私はもう街のためとか、人のためとか。そんなことはどうだっていいんだ。」
「・・・何故?」
「私はね・・・人を殺す快楽に溺れたいがためだけに、edgeを創設したんだよ。」
高笑いをする社長の目は死んでいた。焦点の定まらない視線。どこかで見たことのあるような。
「・・・社長、まさか貴方薬物を・・・!?」
「ああ、君から以前受け取ったアレだがね。私はアレの愛好家なんだよ。私もウォールで手に入れている。」
以前潜入任務の際に入手した1本の煙草のような薬物。
社長はそれを煙草ケースの中から取り出して見せた。
「何故・・・薬物になんか手を出したんですか?!」
「何故?私はね、薬物に手を出したわけじゃない。快楽に手を出したんだ。極上の快楽。普段規則で縛られている世界できちんと規則を守って生きていて何が楽しい?規則を破ってこその世界だろう?」
社長は携帯の画面を見せ付ける。
そこに映っていたのは・・・――
「・・・っ?!」
無残にも、切り刻まれ原型を留め切れていない人間の身体。
だが、宝条は直感ですぐにわかった。かすかに見える茶髪。四角いピアス。
「四方・・・さん・・・?」
「そうさ。これは4年前の四方。4年前は3月の冷戦というものが、東の国で起きていてね。私はそこへ任務で赴いていた。任務を終え、帰ろうと空港へ向う途中だったよ。空港に向うには、草原を越えていかなくてはいけなくてね。その草原を越えている途中で、今にも事切れそうな彼に出会った。そして、彼に声をかけた。『死ぬのか?』と。そしたら彼は死ぬのかわからないと答えてきた・・・――」

『死ぬのか?』

『死・・・ぬの・・・かな・・・。』

『お前の命はここまでのものだったのか?』

『苦しい・・・んだ・・・。』

『消えるな。私の元へこい。』

『・・・好きに・・・しろ・・・――。』

「好きにしろ。それが4年前の彼の最期の言葉。だから私は好きにした。彼を持ち帰り、解体し、人を切り刻む快楽を知るために!!彼には感謝しているよ!私に新たな世界を生み出してくれた!だから、私は彼に1つ、力を与えてやった。」
狂ったように笑いながら、喋る社長は、突然覚めた目つきになり力を与えたという。
宝条には普段みている四方からは何も想像がつかない。
「動力炉になってもらうために。失われたという力をもう一度与えてやった。」
「失われた力・・・?」
「・・・・・・最期の魔術師の力・・・ラグナノクを。」
ラグナノク。その単語を聞いた瞬間、宝条は目を見開く。
「ラグナノク・・・あの、伝説とも言われるアレ・・・か?」
「そう・・・神しか持つことが許されないという力。神話上にでてくる【ラグナノク】・・・四方にはね、世界を終幕へと導くほどの力があったんだ。でも、彼はその力を生前に奪われていてね。裏ルートで買い取り、彼の中に埋め込んだんだ。ピアスをしている間は電源が入っている携帯と同じ状態みたいなもので、取ってしまうと電源は落ちてしまうんだ。その落ちた状態だとね、ラグナノクの力を最大に活かせる・・・でも、力を取り戻したが、自分では使うことが出来ないようでね。彼の力を動力へと活かし、最終兵器の動力源へと変換したんだ。」
「・・・最終兵器・・・?」
宝条の言葉に、社長はクスリと笑うと、レーザーガンを向け、一言。

「俺が研究をかさねて生み出した核兵器・・・『フラッド』。」

レーザーガンが宝条の後ろにある屋上の入口を打ち破る。
壊れてしまった扉が崩れ落ちると、そこには睦月と葉月。
「睦月、葉月。」
「・・・・・・イエス、マイマスター・・・。」
睦月は巨大な斧を、葉月は巨大な鎌を構えて、冷めた目つきで宝条を捉えた。
「・・・嘘だろ・・・?」
宝条の呟きもむなしく、二人は宝条に向って目にも止まらぬ速さで接近してきた。
上からは睦月の斧。横からは葉月の鎌。
それをたった一本の重剣で受け止める。が、それでも二人分の力。
とてもじゃないが、同時に攻撃をされると、受け止めた腕に痺れが走る。
「二人とも!どうしてこんな真似を!!」
宝条の呼びかけに何の反応も示さない二人。
ただ、『抹殺』を目的とした眼差しが、ひどく宝条に痛みを与えた。
「二人は元より人間ではない。元々は、瓦礫の中で生まれた魔物の子供だった。」
ヘリへ乗り込み、今にも飛び立とうとしている社長が突如言う。
宝条は二人の攻撃を受け交わしながら、耳を傾ける。
「人の姿をした、魔物。『デコイ』という種族の魔物だ。彼らは姿は人の形をしているかもしれないが、非常に残忍性の高い危険な生き物だ。今では睦月、葉月としての記憶などもう彼らの中にはない。『魔物』としての本能だけで動いている。お前を殺し、食らいつくために。」
それだけ言うと、ヘリは飛び去ってしまった。
「違う・・・二人は魔物なんかじゃない・・・。魔物には、あんな人間のように複雑な感情出せるはずがない。」
確かにそこにあった感情。笑って、からかって、研究熱心な二人。
そんな二人を魔物・・・?
魔物っていうのは・・・――――
「魔物っていうのは・・・俺のことを言うんだ・・・!!!」
受け止めていた二人の武器を弾き返し、宝条は重剣を投げ出すと、姿を消しながら二人へと接近する。
宝条の姿を捉えることが出来なかった睦月の後ろまで回ると、彼の持っていた斧を因子分解で粉々にしてしまった。
突然消えてしまった武器に驚いた様子だったが、すぐに睦月は振り返り、仕込んでいたナイフで宝条の目を貫く。
深く突き刺さるそこからは、赤いものが流れ、宝条の頬を滑り落ちていった。
しかし、宝条は叫びもしなければ、苦痛に顔を歪める様子も無かった。
そっと、ナイフを持つ睦月の手首に手を持っていき、その手を引き抜いた。
確かに貫かれたはずの目。しかしそこには傷1つ残ってはいなかった。
「悪いな・・・俺は本当に魔物なんだ。」
綺麗に笑ってみせて、宝条は目に突き刺さっていたナイフで睦月を切り捨てた。
「・・・何?!」
切り捨てられたはずの睦月。しかし、彼の身体は引き裂かれたところから黒い触手を伸ばして宝条に巻き付いてきた。
身動きの取れなくなった宝条をみて、睦月と葉月は至極可笑しそうに微笑む。
葉月は宝条に歩み寄って、彼の首筋に噛み付き、肉を引きちぎった。
深く食いちぎられたことによって出血が激しいが、宝条は苦痛の表情もなく、哀れんだ様子で葉月の様子を伺った。
食いちぎり、宝条の肉を捕食している葉月は、噛み砕く顎の動きを突如止めた。
「ヴぁ・・・あ・・・ああああぁあぁあぁああ?!」
悲鳴を上げながら葉月の肉体が変化を遂げていく。ベコッボコッと、音を立てながら、身体が内部から砕けていき、最後には爆発し、粉々に飛び散った。
葉月の肉片が宝条の頬に飛びつく。
その様子を見ていた睦月は声も出せないと言った様子で呆然としていた。
「睦月。アンタにまだ自我があるなら聞いておくといい。アンタも研究者なんだから、知りたいだろう?俺の身体は普通じゃない。人間でも魔物でも・・・どちらの細胞でもない。俺の身体は呪われている。自身の力を解放しない限り死ねないからだなんだ。ただ、俺の血液や肉体を取り込んだりすると・・・こうなる。」
飛び散った葉月を指さして、宝条は笑う。
「さて・・・次はアンタ?いいよ、食べたいならどうぞ。」
食いちぎられた首元の襟を引っ張り、赤が溢れ出すそこを見せ付ける。
そうすると、様子のおかしかった睦月の目に光が戻ってきた。
はっとしたような表情で、食いちぎられた宝条の首元を見て、床に飛び散った葉月の無残な姿を見て、絶句し、気絶してしまった。
「・・・ごめん。」
余裕の表情でいた宝条は膝をついて俯いて呟いた。
「僕は・・・魔物だ・・・。」





次に睦月が目覚めると、そこはedgeの医務室だった。
先程まで自分が見ていたことが全て夢落ちであればいいのに。
そう思いながら上体を起すと、睦月のベッドに寄りかかって眠っている宝条がいた。
「・・・。」
「・・・大丈夫?って、僕が言うのも変だね。僕があんなことしたのに・・・。」
睦月に顔を見せることのないまま、宝条がベッドに伏せた状態でぽつりぽつりと言葉を漏らす。
その言葉に、先程までのことはやはり夢ではなかったのかと思い知らされると、睦月はなんともいえなくなった。
「・・・葉月を・・・殺してしまった・・・!!!」
シーツを握り締める手に気がついて、睦月は宝条を起す。
そこには、とても大人とは思えないほど怯えた子供のような泣き顔。
繰り返す言葉。止まらないフラッシュバック。
彼の中で葉月以外のものまで同時に再生されている。
「落ち着け!大丈夫だ!!宝条!!!」
睦月が叫びながら呼びかけると、宝条ははっとした様子で正気に戻る。
「俺は君を攻めたりなんかしないよ・・・俺たちも悪いんだ。何故か、急に本能が理性より前に出てきちゃって・・・。葉月のことは仕方ないよ。葉月は自分の本能に従って君の肉を食べてしまったんだ。君を攻めるつもりはないよ。」
「・・・。」
「さ、手当てをしてあげよう。いつまでもそのままはいけないな。」
そっと、噛み千切られた場所に手を伸ばされたが、宝条はそれを阻止し、睦月に聞きだしたいことを優先した。
「これくらいなら治せるから大丈夫だよ。それより、四方さんの行方を捜しているんだ。携帯が繋がらない。それから、社長の行方も。」
「・・・欲張りだな君は。・・・多分四方君は動力源にされているはずさ・・・フラッドの。」
「フラッド・・・?」
「ああ。ここから大陸を越えて貿易港ロゼッタに向うといい。そこにはedgeの機密研究室が地下にあってね・・・そこに最終兵器とでも言おうか・・・フラッドが隠されている。社長はそれを利用して、この街を潰そうと考えているらしい。全てを消し去り、白紙になった街で、自分の思い描く街を作る。それが社長が以前から描いていた夢なんだ。だから多分、今回向った先もロゼッタだと思う。四方は恐らく、このedge内部の社長の部屋に備え付けられている動力源還元装置の中で眠っているんじゃないかな・・・ラグナノクの力を動力源にするには一度魔力を原子状態に分解し、属性原子と融合させないといけないから、それをゲージにつめてロゼッタまで運んでいると思う。」
「わかった・・・ありがとう。よかったら、四方さん、助け出してあげて?」
頷いた睦月に、宝条は背を向けて医務室から出て行こうとしたが、睦月に呼び止められて、緑色の鉱石がついた指輪二つを投げ渡された。
「きっと役に立つはず。持って行って。俺と、葉月を。」
宝条は指輪を自分の指にはめて、頷いた。