着信4 | PLUTO KISS

着信4

「四方、すまないが、ちょっと・・・またお願いしてもいいかな?」
デスクワークをしていた四方に社長が声をかけると、四方は書類から顔をあげ、少し複雑そうな顔で頷いた。
「構いませんけれど、今回はどれくらい時間が掛かりますか?場合によっては宝条にも話しをしておかないといけないので。」
「そうだね・・・2~3日程度だよ。」
「分かりました。それじゃあ、社長のほうから適当に話しをしておいてください。」
「ああ。構わないよ。それじゃあ、四方・・・行こうか。」
「・・・はい。」
社長に手を差し伸べられ、その手に自分の手を重ねると、四方は社長の部屋の更に奥にある部屋へと導かれ、椅子に座らされると、瞳を閉じるように命令された。
素直に瞳を閉じ、されるがままの状態になった四方に社長は手を伸ばし、耳についていたピアスを抜き取った。
抜き取られた四方はまるで支えが無くなった人形のようにがくんっと首から下がり、全身の力が抜け、椅子に深く沈んでいった。
「・・・ごめんな。時間は2~3日程度じゃない。永遠だ。」
その言葉は決して四方には届いていない。
社長は大量のコードを四方の体中に繋げ、宙ぶらりん状態にすると、そっと部屋の扉を閉め、鍵をかけた。


   ―――・・・社長・・・・・・?―――


「で、宝条君。君はこの間の一件から結構話題になっているけれど、その多重人格性と身体を武器に変えてしまうという話、本当かい?」
「・・・多重人格じゃないです。これは、僕自身なんです。」
トレーニングルームで他の社員の手合わせをしていた宝条を見つけたルナが、四方から聞いた舞台中の出来事のことを聞き出そうと宝条に声をかけた。
しかし、宝条は答えるつもりは全くないようで、曖昧な返事と黙秘で質問を受け流していた。
「ルナさんは・・・自分の中の闇や、深い傷を抉られる人の気持ちがまるで分からないみたいですね。」
宝条の言葉にルナは眉を顰める。かすかな怒りを表して。
「・・・君に俺の気持ちなんて分からないよ。それほど俺の闇は大きく、誰も立ち入れない。」
「その言葉、そのままそっくりお返しします。それでは、僕はこれから晩御飯を作るので。」
そういい、部屋へと戻ろうとした宝条だったが、突然鳴り出した携帯の音に足を止め、電話へ出た。
発信者名は『社長』と表示されていた。
「はい、もしもし。宝条です。」
『ああ、宝条君。悪いね。すまないが四方は長期任務に出かけてしまってね。しばらく帰れなくなったんだ。』
「はい、分かりました・・・。」
電話を切った宝条にルナがピクリと反応すると、こう告げてきた。
「おかしい。・・・四方は、長期任務なんて突然入れるような奴じゃない・・・何があっても、必ず補佐である俺に電話かメールを入れるはずなんだけど・・・。」
「たまたま入れられなかっただけじゃないんですか?」
「まっさかぁ!・・・あ、そうだ、四方に電話してみればわかるはずさ!」
そう思い立ったらすぐに四方の携帯へとコールした。

『・・・おかけになられた番号は、現在使われておりません。』

電話の向こうから聞こえてきたのは機械的な女性の声だった。
「・・・四方の携帯が使われていないって・・・嘘だろ?今朝かけたときには繋がったのに・・・。」
「嘘・・・・・・あ、メールもエラーで帰ってくる。」
連絡を取ろうとしても、四方の携帯から帰ってくる返信はエラーばかり。
何か様子がおかしい。
だが、これだけの情報では、なんともいえない。
もしかしたら携帯が壊れてしまっているだけなのかもしれないし、電波が届かないだけなのかもしれない。
「・・・俺、ちょっと調べてくる。宝条は、このことをクロノスに伝えて。きっと彼の情報網が深く調べてきてくれるから。」
何か引っかかるルナは急いでトレーニングルームから出て行ってしまった。
彼の後ろ姿に声をかけようとしたが、言葉が詰まってしまった宝条は仕方なくクロノスに電話を入れて、自らも調べるために四方の執務室へと向った。
ノックをして四方の執務室に入ると、執務室内は彼の処理途中である書類が開け放たれていた窓から入る風によって、床に散らばっていた。
それを拾い上げていると、書類の下から粉々になった四方のサブ携帯と思われるものと、電磁ロッドが姿を現した。
「何か・・・あったの・・・?」
問いかけに彼が答えるわけではないのは分かっていても独り言のように呟いた言葉は飽和して反響する。
視線を隅々まで送っていると、部屋の隅にアクセサリーを下げるために置かれているらしい像が視界に入ってきた。
宝条は像の前まで行くと、像に下げられたピアスの1つに違和感を感じた。
「・・・これって・・・機密データを隠している・・・のかな。」
違和感を感じたのは、やけに四角いピアス。側面には切り込みが入っていて、そっと触れると蓋が開いた。
中には、小型のCD-R。
「・・・あの人たちと同じ隠し方。」
遠い昔に出会った人々と同じ隠し方をする四方の行動に引っかかりながらも、CD-Rを四方のパソコンに入れてみた。
すぐにデータを読み込むと、動画が再生され始めた。

  『さて、問題です。君の名前は?』
    『・・・・・・し、ほう・・・しょう・・・。』
  『よしよし。自分の名前は覚えたみたいだね。おい、グレア。コイツをいつもの場所に連れて行け。』
再生された動画は、恐らく過去の四方の視点からみたものなのだろう。四方の視点からみた動画には、白衣を着た2人の男性が映っていた。
四方の声だと思われる、かすれるような、蚊の鳴くような小さな声は、何処か虚ろ気味。
場面は変わり、綺麗な室内で金髪の男性を目の前に四方は言葉を交わしている。
  『君は3月の冷戦で戦った兵士だと聞いたのだけれど、具体的にどんなことをしていたのかな?』
    『・・・3月の冷戦は、領地拡大を図る馬鹿な親父が始めた戦争だ・・・俺はそれを食い止めるために・・・人を斬った。』
  『お父さんはどうして領地拡大なんか・・・。』
    『知らない。知らない!!!』
叫びだした四方に金髪の男性はゆっくりと布を顔に押し当て、四方を黙らせた。
場面はまた変わり、今度は森の中。
何かから逃げる四方は息を荒げて、剣を片手に走り行く。
『わが息子を捕らえろ!!殺しても構わない!!!』
  『どうして・・・父さんどうして!!!!』
『お前など、必要ない。お前の中に宿っていた力・・・アレは既に売り払って金にした。既にお前に用など無い!いても邪魔なだけだ!』
  『いやだ・・・!!!嫌だぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!!』
視界が赤に染まる。
降り注ぐ暖かな太陽の光の中、四方の息の根は静かに、ゆっくりと・・・確実に死に向かって歩いていた。
かすみ始めた彼の視界に入ってきたのは若き日の社長。
  『死ぬのか?』
    『死・・・ぬの・・・かな・・・。』
  『お前の命はここまでのものだったのか?』
    『苦しい・・・んだ・・・。』
  『消えるな。私の元へこい。』
    『・・・好きに・・・しろ・・・――。』
そこでCD-Rの動画は切れてしまった。
「・・・・・・四方さんに、昔何があったんだ・・・?」
とにかく詳しいことは社長が知っていそうだ。ならば聞き出すのは社長が一番だろう。そう思いたち、振り返ったときだった。
「見たんだね。」
振り返ったすぐ目の前に無表情の社長がいた。
彼の存在に気がつかなかった宝条は息を呑む。その手に握られていた凶器にも気がつかず。
「おやすみ。」

ゴッ

鈍い音を立てて、宝条の頭部に鈍器が食い込んだ。
倒れこんだ宝条の頭部からあふれ出た赤はゆっくりとカーペットに広がっていった。
それを見て、くすりと微笑むと、宝条を何処かへと運んでいった。